故山こざん)” の例文
晁蓋はこの一戦を買って出たばかりに、曾頭市そうとうしの市街戦で矢にあたり、約一ヵ月ほど後、あえなき重傷者になって、故山こざんへ送りかえされて来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまたゞ一人ひとりあにであれば、あたことならみづか見舞みまひもし、ひさしぶりに故山こざんつきをもながめたいとの願望ねがひ丁度ちやうど小兒せうにのこともあるので、しからばこの機會をりにといふので
日本語をくする事邦人に異らず、蘇山人そさんじん戯号ぎごうして俳句を吟じ小説をつづりては常にわれらをしりえ瞠若どうじゃくたらしめた才人である。故山こざんかえる時一句を残して曰く
もし漢青年が今日こんにちのように切迫せっぱくした時局を知ったなら、彼はどころ故山こざんに帰り、揚子江ようすこう銭塘口せんとうこうとの下流一帯を糾合きゅうごうして、一千年前のの王国を興したことだろう。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくばくもなく官を退いた後は、故山こざん虢略かくりゃく帰臥きがし、人とまじわりを絶って、ひたすら詩作にふけった。
山月記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ゆえにもしかくのごとき地名と苗字の関係によってほぼ祖先の生活根拠の故山こざんを知ることを得、しかもそれに伴なってその当時の経済情態を一部分なりとも知ることができ
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
二十六年故山こざんを出でて、熊谷の桜に近く住むこと数年、三十三年にはここ忍沼おしぬまのほとりに移りてより、また数年を出でずして蝸牛ででむしのそれのごとく、またも重からぬからひて
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
しかるに今日は以前もとの凡夫のその儘で帰るのですから実に自分の故郷の人に対して恥かしいのみならず、誓いを立てて出た故山こざんに対しいかにして顔を合わせることが出来ようかと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ついに故山こざんへ帰ってくわを握り、自分の夢をこのおれにたくした、おれには父の胸中がよくわかった、一日も早く一流の剣士になって、父によろこんでもらおうと思った、しかし、もうそのときは来ない
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、ちまたの沙汰にも聞いております。せっかくな楠木どのの御苦諫ごくかんも、みかどの容れ給うところとならず、逆鱗げきりんさえこうむって、むなしく故山こざん御帰臥ごきがとやらを……。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)