すり)” の例文
白い往来には、大師詣りの人達の姿が、ちらほら見えて、或雑木林の片陰などには、汚い天刑病てんけいびょう者が、そこにも此処にも頭を土にすりつけていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その時気がついたんだが彼の背広はあちこちすり切れていて、今日はカラアも着けていなかった。この前は血走っていたが今日の眼は青く澄んでいる。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
解剖室の窓のすりガラスには日が当って、室内はマグネシウムの光で照された夜の墓場のようにあかるく、血のついた皮膚が、気味の悪いような白さに輝きました。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
其中そのうち祖父ぢいさまがすりものの上へ筆の先で一寸ちよつと蚯蚓みみずよぢれたやうなものをおかきなすつたが見えましたから、不思議で/\、黙つて居ようと思つても、らへ切れませんで、ツイ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
あるいは土地へすり付けてしまうか、とにかくその血角だけは必ず失くして死んでしまうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おおいなる顔を、縁側にもたげて座敷をうかがい、飜然ひらりと飛上りて駈来かけきたり、お丹の膝にすり寄れば、もとどり絡巻からまける車夫の手を、お丹右手めてにて支えながら、左手ゆんでを働かして、(じゃむこう)の首環くびわを探り
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何がるかわからないところへ、どうして踏み込んでゆくことができよう。勿論われわれはすり足でもして進むほかはないだろう。しかしそれは苦渋や不安や恐怖の感情で一ぱいになった一歩だ。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
つめて申しければ昌次郎も一ごんこたへもなく赤面せきめん閉口へいこうしたりしは心地こゝちよくこそ見えにけれ父上臺憑司こらかねて立ち上り昌次郎の襟髮えりがみつかたゝみすり付け打据うちすゆるにお早は娘お梅がたぶさつかんで引倒し怒の聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あかね寄生樹ほやすり
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手撈てさぐりに、火鉢の抽斗ひきだしからマツチを取出すと、手捷てばしこすりつけて、一昨日おとゝひ投出ほうりだして行つたまゝのランプを、臺所だいどこの口から持つて來て、火をけたが、もう何をする勇氣もなく、取放とりツぱなしの蒲團の上に
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)