掻込かっこ)” の例文
と差配になったのが地声で甲走かんばしった。が、それでも、ぞろぞろぞろぞろと口で言い言い三人、指二本で掻込かっこ仕形しかた
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
せっせと飯を掻込かっこんで居る恭二のピクピクする「こめかみ」や条をつけた様な頸足しを見て居るうちに、栄蔵の心には、一種の、今までに経験しなかった愛情が湧き上った。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さっそく朝飯を掻込かっこみ、雨を冒して停車場ステーションへ駆け着けてみると、一行いっこう連中まだ誰も見えず、読売新聞の小泉君、雄弁会の大沢君など、肝腎の出発隊より先に見送りに来ている。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
わたくしはお雪さんが飯櫃おはちを抱きかかえるようにして飯をよそい、さらさら音を立てて茶漬ちゃづけ掻込かっこむ姿を、あまり明くない電燈の光と、絶えざる溝蚊どぶかの声の中にじっと眺めやる時
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わしゃア無一国むいっこくな人間で、いやにおさむれえへ上手をつかったり、窮屈におっつわる事が出来ねえから、矢張やっぱり胡坐あぐらをかいて草臥くたびれゝば寝転び、腹がったら胡坐を掻いて、塩引のしゃけで茶漬を掻込かっこむのがうめえからね
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
台所で一知が茶漬を掻込かっこんでいるらしい物音に耳を澄ますと、直ぐにしゃがんで、片手で砥石を持上げてみた。砥石の下には頭をタタキ潰された蚯蚓みみずが一匹、半死半生に変色したまま静かに動いていた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いわしこい、鰯こいは、威勢の好い小児こどもが呼ぶ。何でも商いをして帰って、佃島の小さな長屋の台所へ、ざる天秤棒てんびんぼうほうり込むと、おまんま掻込かっこんで尋常科じんじょうかへ行こうというのだ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と特別に夫人が膳につけたのを、やがてお茶漬で掻込かっこんだのを見て、その時はいたく嬉しがった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
落胆がっかりして、おなかいたと申して、勝手でお茶漬を掻込かっこんでおるでござりますが、な。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思出したように急がしく掻込かっこんで、手拭てぬぐいはじでへの字にしわを刻んだ口のはたをぐいとき、差置いたはしも持直さず、腕を組んで傾いていたが、台所を見れば引窓から、門口かどぐちを見れば戸のすきから
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右の掻込かっこんで、その腰を据えた方に、美しいひとと紳士の縁台がある。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は気が付くと、その、——後で妹の話を聞いて慄然ぞっとして飛んで出たが、猫行火ねこあんか噛着かじりついていて、豆煎まめいりを頬張ったが、余り腹が空いて口が乾いて咽喉のどへ通らないから、番茶をかけて掻込かっこんだって。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)