振分ふりわ)” の例文
金蔵は、旗幟はたのぼりを立てる大きな石の柱の下にうずくまって、振分ふりわけの荷物を膝の上に取下ろし、お豊の面をさも嬉しそうに見ています。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
振分ふりわけにして、比較的ひかくてきかるさうなのをかついでると、おもいのおもくないのと、おはなしにならぬ。肩骨かたぼねはメリ/\ひゞくのである。
脇差を引つこ拔いて、武士と渡り合ふのを不穩當と思つたか、右手に掴んだ振分ふりわけの荷、——それを入口を塞いだ大男の股倉またぐらへパツと抛つたのです。
大手前おおてまえ土塀どべいすみに、足代板あじろいたの高座に乗った、さいもん語りのデロレン坊主、但し長い頭髪かみのけひたい振分ふりわけ、ごろごろとしゃくを鳴らしつつ、塩辛声しおからごえして
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寛文かんぶん十年陰暦いんれき十月の末、喜三郎は独り蘭袋に辞して、故郷熊本へ帰る旅程にのぼった。彼の振分ふりわけの行李こうりの中には、求馬もとめ左近さこん甚太夫じんだゆうの三人の遺髪がはいっていた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
歯朶しだを踏みしだき、木の根を足がかりに、たちまち、そこに、谷を覗きぐあいにえている一本の山桂の枝へ、油紙包ゆしづつみ振分ふりわけを肩にしたまま、ひょいと飛びついた。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
主が年の頃は十七八になりもやせん、身には薄色に草模樣を染めたる小袿こうちぎを着け、水際みづぎは立ちしひたひよりたけにも餘らん濡羽ぬれは黒髮くろかみ、肩に振分ふりわけてうしろげたる姿、優に氣高し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
小さくたてに長く折ったのをゆわえて、振分ふりわけにして肩に投げて、両提ふたつさげ煙草入たばこいれ、大きいのをぶらげて、どういう気か、渋団扇しぶうちわで、はたはたと胸毛をあおぎながら、てくりてくり寄って来て
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう、其處等そこら如才じよさいはござりません、とお手代てだい。こゝで荷鞍にぐらへ、銀袋ぎんたい人參にんじん大包おほづつみ振分ふりわけに、少年せうねんがゆたりとり、手代てだいは、裾短すそみじか羽織はおりひもをしやんとかまへて、空高そらたか長安ちやうあん大都だいとく。
人参 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)