懇望こんもう)” の例文
加藤清正に懇望こんもうされて肥後へ高禄でよばれて行った麒麟児きりんじ兵庫利厳ひょうごとしとしなどという「偉大なるかわず」をたくさんに時勢の中へ送っている。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし主人があれほど懇望こんもうしているのを、空手からてで帰るのも心苦しいので、彼はいろいろ思案の末に先方の頼みをきくことに決めた。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
綺麗な小柴さんの懇望こんもうを再三拒絶するのは辛かった。女性の美に特別脆い僕だ。タイピスト連中の英語は程度が知れている。
四十不惑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
酔った結城氏が柄になく義太夫ぎだゆうのさわりをうなったり、志摩子さんが一同に懇望こんもうされて、ヴァイオリンを弾いたりした。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると突然縁談がおこったというのは、何でも、その娘をある男が外で見染めたとかで、是非というつまり容貌きりょう望みで直接に先方から懇望こんもうして来たのである。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
同情してくれる人はだいぶあると思うから白状するが、旅をして悪筆を懇望こんもうされるほど厄介やっかいな事はない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今尚諸国を経巡へめぐりて、斯道しどうの達人を求めおる次第、しかるに只今お聞きすれば、忍術の心得ござるおもむき、拙者にとっては何よりの幸い、なにとぞ拙者の懇望こんもうを入れられ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女親が少しむずかしやだという評判だけど、そのむずかしいという人がたいへんお前を気に入ってたっての懇望こんもうでできた縁談だもの、いられるもいられないもないはずだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
養子助十郎へそのままお礼を嫁にと懇望こんもうされると、一議に及ばず、渡りに舟で応じ、それっきり林太郎のことは忘れてしまって、行方を捜す様子もないことが判りました。
九郎右衛門、宇平の二人は、大村家の侍で棒の修行を懇望こんもうするものだと云って、勧善寺に弟子入の事を言い入れた。客僧は承引して、あすのの刻に面会しようと云った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あの方がどこでわたくしをごらんになり、どうしてそんなに懇望こんもうなさるのかわからなかった。けれども、養家の父母が承知したし、わたくしも「いや」と云う気はなかった。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ずっと伝通院まで乗込むはずであったのを、吉原遊廓の懇望こんもうもだし難く、大山大聖が、しばらくそこへげることになりました。吉原では、大樽の鏡を抜いてこの一行をもてなします。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや実はわたしもそんな事がなけりゃいいがと思ったくらいで、まあやらない方じゃったが、浪がしきりに言うし、自身も懇望こんもうしちょったものじゃから——はあ、そう、はあ、はあ、何分願います
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
猛犬稻妻まうけんいなづま日出雄少年ひでをせうねん懇望こんもうで、この冐險旅行ぼうけんりよかうしたがことになつた。
お殿様や奥様のご懇望こんもうを考えるとうれしいが、正三君を手ばなすのだと思うと悲しくなる。姉さんたちも女心は同様だった。そこでお父さんは
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのため、増長天王はしばらく江戸の上屋敷の秘庫ひこにあったが、後に将軍家斉いえなり懇望こんもうされて、江戸城本丸に移された。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少女時代すでに天才をうたわれ、さる独逸ドイツ人音楽教授の愛弟子まなでしとなって、年と共にそのは進み、今では懇望こんもうされてステージに立つ事も屡々しばしばであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
研屋五兵衛の懇望こんもうのまま諸大名はいうまでもなく、公儀の御用までも取次ぎ、この十年の間に、めっきり研屋の暖簾のれんをよくしてやりましたが、五兵衛は女道楽と勝負事が好きで、最近二三年の間に
「修業は充分させてくれるさ。元来お前の成績を聞き知って懇望こんもうするんだから、その辺は何うにでも話をつけてやる」
合縁奇縁 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おやしきのご三男様のお学友にほしいとお殿様も奥様もおっしゃる。ぜひともというご懇望こんもうだ。家の子供がこうまで評判がよいとは思わなかったよ。わしは面目めんぼく
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「うむ。懇望こんもうされたんだからね。縁って奴は不思議なものだよ。義兄は去年東浜ひがしはまへ海水浴に来ていたんだ。姉も町の親類へ行っていたものだから、浜で顔が合ったらしい」
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
要するに皆の懇望こんもうだから、原動力はの辺にあるか知らないが、連れて行くことにしようよ
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
改まって何だろうと思ったら、団さん夫婦が僕を養子に懇望こんもうしているということだった。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そこは腕一本で身上しんしょうを起した苦労人だ。いも甘いも能く心得ている。その初め寛一君を店へ貰い受ける時も、寛一君のお父さんへあらかじ懇望こんもうして将来のことまで約束したのだった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さて、若い松浦さんは新太郎君のお父さんから秀子さんを懇望こんもうされた時
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「養子女婿だから出世するのか? 元来秀才で出世する資格があるから養子女婿に物色されるのか? これは考えるまでもないことでしょう。養子女婿は選ばれた人種です。選民チョズン・ピープルです。優秀だから懇望こんもうされるんです」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)