つか)” の例文
追えば追うほど兎種々に走りかくれて犬ために身つかれ心乱れて少しも主命を用いず、故に狩猟の途上兎を見れば中途からかえる事多しと
表階子おもてばしごの口にかかれる大時計は、病みつかれたるやうの鈍き響をして、廊下のやみ彷徨さまよふを、数ふればまさに十一時なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
迷宮のうちにあつて「美」の所在を争ひ、右に走り左に馳せ、東に疲れ西につかるゝ者、比々ひゝ皆な是なり。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
夜は最終の同じガタ馬車で五里の石ころ道を搖られて歸る父は、さうした毎日の病院通ひにへと/\につかれてゐること、扁桃腺まで併發して、食物は一切咽喉を通らず
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
お島は死場所でも捜しあるいている宿なし女のように、橋のたもとをぶらぶらしていたが、時々欄干らんかんにもたれて、争闘につかれた体に気息いきをいれながら、ぼんやりたたずんでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鱒魚はかように瀑布と悪戦苦闘を続けてつかれにつかれて、到底瀑布を登ることが出来ぬと断念して、他に上るべき水路を求めている、人間の猿智慧はこんな山間でも悪用されていて
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
着物に鈎裂をこしらえ身体中蜘蛛の巣だらけになってがッかりとつかれて帰って来る。
単純な充実じゅうじつした生活をする農家が今勝誇かちほこる麦秋の賑合にぎわいの中に、気の多い美的百姓は肩身狭く、つかれた心と焦々いらいらした気分で自ら己をのろうて居る。さっぱりと身を捨てゝ真実の農にはなれず。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ものういつかれのかげを、嬋娟せんけんたる容姿のどこかに見せながら。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
つかるる色は更になし
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
今一足で出立点と言うときたちまち野猪の前へ躍び下りる、かくすること数多回一度も野猪の勝とならなんだので憤りとつかれで死んでしまったとある。
車はせ、景は移り、境は転じ、客は改まれど、貫一はかはらざる悒鬱ゆううついだきて、る方無き五時間のひとりつかれつつ、始て西那須野にしなすのの駅に下車せり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かかることありし翌日はおびただしく脳のつかるるとともに、心乱れ動きて、そのいかりしのちを憤り、悲みし後を悲まざればまず、為に必ず一日の勤を廃するは彼の病なりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その先祖犬山姥やまうばを殺し自分耳にその血を塗って後日の証としたのが今にのこったと言う、米国住黒人の談に昔青橿鳥その長子を鷹につかみ去られ追踪すれど見当らずつかれて野に臥す。
皆人の熟知する通り。行商人、炎天に赤帽の荷をにない歩みつかれて猴多き樹下に止まり、荷箱を開いて赤帽一つ取り出しかぶって眠るを見た猴ども、樹より降りて一々赤帽を冒り樹に登る。
巨人に根を肩にさせ自分は枝のまたに坐っているのを巨人一向気付かず一人して大木を担げあるいたのでつかれてしまった、それから巨人の家に往って宿ると縫工夜間寝床に臥せず室隅に臥す