慷慨かうがい)” の例文
吾々われ/\が十六七のとき文天祥ぶんてんしやう正気せいきの歌などにかぶれて、ひそかに慷慨かうがい家列伝に編入してもらひたい希望で作つたものと同程度の出来栄できばえである。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
といふは自分達は失敬ながら世界を知らないで蚊のすねのやうな痩腕を叩いて日本主義の国粋主義のと慷慨かうがい振る癖に
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
二人が会合すれば、いつも尊王攘夷の事を談じて慷慨かうがいし、所謂いはゆる万機一新の朝廷の措置に、やゝもすれば因循の形迹けいせきあらはれ、外国人が分外ぶんぐわいの尊敬を受けるのをあきたらぬことに思つた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
甲田は、斯ういふ徹底しない論理を、臆病な若い医者が初めて鋭利な外科刀メスを持つた時のやうな心持で極めて熱心に取扱つてゐた。そして、慷慨かうがいに堪へないやうな顔をして口をつぐんだ。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
平和な長閑のどかな樣を歌ふにはなだらかなる長き調を用うべく悲哀とか慷慨かうがいとかにて情の迫りたる時又は天然にても人事にても景象の活動甚だしく變化の急なる時之を歌ふには迫りたる短き調を
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ元來ぐわんらい愛國あいこく慷慨かうがいひとかつ北海ほくかい滊船きせん面會めんくわいしたときも、談話だんわこゝおよんだときかれはふと衣袋ポツケツトそこさぐつて、昨夜さくや旅亭りよてい徒然つれ/″\つくつたのだとつて、一ぺん不思議ふしぎ新體詩しんたいししめされた。
旦那だんな役所やくしよかよくつさきかゞやいてるけれども、細君さいくん他所行よそいき穿物はきものは、むさくるしいほど泥塗どろまみれであるが、おもふに玄關番げんくわんばん學僕がくぼくが、悲憤ひふん慷慨かうがいで、をんなあしにつけるものを打棄うつちやつてくのであらう。
山の手小景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)