意匠いしょう)” の例文
茶道さどうはなるべく自己の意匠いしょうによりて新方式を作らざるべからず。その新方式といへども二度用ゐれば陳腐につる事あるべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かぶとよろいの華やかさは云わずもがな、黄金こがね太刀たち白銀しろがね小貫こざね矢壺やつぼや鞍にいたるまで、時代の名工が意匠いしょうすいらした物ずくめであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近頃身体からだに暇ができて、自分の意匠いしょう通り住居すまいを新築したこの叔父の建築に関する単語は、いつの間にか急にえていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
台の上には、他の物と一しょに、丸にいの字の田之助たゆう珊瑚が五つ六つ飾ってある。大きさも意匠いしょうもみな同じようで、帯留の前飾りにできたものだった。
時計の元来の所有者は、女性に違いなかった。が、その象眼は、何と云う女らしからぬ、鋭い意匠いしょうだろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
高く釣りたる棚の上には植木鉢を置きたるに、なお表側の見付みつきを見れば入口のひさし、戸袋、板目なぞも狭きところを皆それぞれに意匠いしょうして網代あじろ、船板、洒竹などを用ゐ云々
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
これ余が広重ひろしげ北斎ほくさいとの江戸名所絵によりて都会とその近郊の風景を見ん事をこいねがひ、鳥居奥村派とりいおくむらはの制作によりて衣服の模様器具の意匠いしょうたずね、天明てんめい以後の美人画によりては
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いかに意匠いしょうをこらしても、矢張やは現世げんせ現世げんせだけのことしかできないものとえます……。
中や表紙の図案を流用しながら、自分の意匠いしょうを加えて、画工にき上げさせ、印刷屋に印刷させて、問屋の註文ちゅうもんに応じていた。ちらしや広告の文案も助手を使って引き受けていた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おそらく交通機関としたら、これほど便利なものはあるまい。すなわち羽根はねが交通機関の理想のごとくなっていたから日本でも西洋でも自由自在に動くものの意匠いしょうには羽根をつけている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「しかし余程面白い意匠いしょうだね。細工も凝ったものだ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すべて竹で意匠いしょうせられている。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
意匠いしょうに巧拙あり、言語に巧拙あり。一に巧にして他に拙なる者あり、両者共に巧なる者あり、両者共に拙なる者あり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ふすま、天井などの美術的意匠いしょうには、狩野永徳かのうえいとくが選ばれ、永徳はひとり自己の画派に偏せず、各派の名匠と凝議ぎょうぎして、畢生ひっせいの傑作をここにいて、久しい戦乱のため
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駿台小隠すんだいしょういんに代りて)答へて曰く、調といふ語は古来種々の意義に用ゐ来れりといへども、意匠いしょうといふ語と同じ意義に用ゐたる例はあるまじ。調はむしろ意匠に関係なき音調をいふが適当なり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)