あわれ)” の例文
己の憐れさをあわれむ語である。邦訳聖書において見るもその悲哀美に富める哀哭あいこく(Lamentation)たるを知り得るのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
またまるで馬、驢、駱駝を用いて、ギリシア人が、かほどの美饌を知らぬをあわれんだから、どの国で馬肉を食ったって構わぬはずだと。
ツンとした瑛子は、赤い燃え立つような絹のブラウスを着て存分ぞんぶんに明けっ放しな顔に、老人の時代錯誤をあわれむような笑が浮びます。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「それにしても可哀そうな女です。あれ自身も思い設けない結果になってしまって——。」と、芳村はまだ女の心持をあわれんでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうして、夫子がそれを咎めたまわぬのは、せ細るまで苦しんで考え込んだ子路の一本気をあわれまれたために過ぎないことを。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わが国の存亡そんぼうの決まる日がすぐそこに見えているために、これが最後のチャンスとふるって立ったのだ。どうぞあわれみたまえ
「いや、呉侯の肚ではありますまい。またしても周瑜しゅうゆの策です。あわれむべし、自分の策のために、周瑜の死にぎわはいよいよ近づいてきたようです」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう時に、年老いたる男女のいて投ずべき家のないものは、あわれむべきである。山内氏から来た牧は二年ぜんに死んだが、跡にまだ妙了尼みょうりょうにがいた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「もう/\そんなにお礼を言わなくてもいゝのだよ。あたしこそおまえさんに諦めを教えて貰ってるんだから——」とあわれみに堪えないように言いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
不孝の子は、ただ慈父これをあわれみ、不弟の弟は、ただ友兄これをゆるす。定省ていせい怡々いい膝下しっかの歓をつくあたわず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
倉皇として奔命し、迫害の中に、飢えと孤独を忍び、しかも真理のとげ難き嘆きと、共存同悲のあわれみの愛のためになげきつつ一生を生きるのである。「日蓮は涙流さぬ日はなし」と彼はいった。
誠にハヤ未発達のあわれむべきものであるといってもよいのである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あわれむがよい。只、それきりだ。観察が甘く、まるで童話的だ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
あわれむごとくしみじみと顔をる)が、気の毒です。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
王その高徳あって必ず位を奪わん事を恐れ宮中に召して殺さんとす、父これをあわれみ子をその舅波梨富羅国はりふらこく波婆利に送る
生母桂昌院けいしょういんの勢力というものから、大奥の婦女政治がかもされ、妖僧の進言が用いられ「畜類ちくるいあわれみ」などという、民を犬以下に見る法令が出て来たりした。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしはいま直ぐにも土の上のこもに臥して大地の慈しみに掻き抱かれ、流水のあわれみに慰められたい。それが娘の若い身空にしては早過ざると思うこころは一つも無くなっています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
銭形平次は八五郎の鈍骨どんこつあわれむともなく、こう言うのでした。
貧人犬の美食を羨みいささか配分をと望んだが、吠えらるるをおそれて躊躇する内、上帝彼をあわれみ一犬に教えたからその犬皿より退き彼を招いた。
上官にびたり甘言につとめて、立身を計るのを見ると、(何たるさもしい男だろう)と、その心事をあわれみ、また部下の甘言をうけて、人のびを喜ぶ上官にはなおさら、侮蔑ぶべつを感じ
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸賊射られた輩の矢を抜くと皆死んだので、かかる弓術の達者にとても叶わぬとさとり、一同降参した。大将これをあわれみ、そこに新城を築き諸人を集め住ませ曠野城と名づけた。
その無辜むこあわれみながらも、逃げるを追って刺し殺し去ったものにちがいない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風霜に苦しみ、食に乏しく、せ衰うるをあわれみ、ある修行者短冊を書き、鳥の頸に付くるに、たちまち目開く、その歌は「には鳥のなくねを神の聞きながら心強くも日を見せぬかな」
喪主仰天して彼を捉え打っていわく、汝死人に遇わばあわれんで今後かかる事なかれと言うべきに多く祝するは何事ぞと。心得ましたとびてまた行くと今度は嫁入りの行列に出逢った。
若き男小蛇をあわれみ種々押問答の末ようやく納得させ、自分の着たる綿衣に替えて小蛇を受け、この蛇は何処どこに在ったかと問いかの小池に持ち行き放ち、さて寺へ行こうと二町ほど過ぎると十二