御膳おぜん)” の例文
四月の十四日——父の命日には、年々床の間に父の名の入つた石摺いしずりの大きなふくをかけて、机の上に位牌と御膳おぜんを据ゑて、お祭をした。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「さあ、もう御膳おぜんを下げたら好かろう」と細君をうながして、先刻さっき達磨だるまをまた畳の上から取って、人指指ひとさしゆびの先へせながら
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蓮如上人れんにょしょうにん御一代ごいちだい聞書ききがきにいう「御膳おぜんを御覧じても人の食わぬ飯を食うよとおぼしめされそうろうと仰せられ候」と。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
おばあさんの入れてあげるお茶は、うまさうにして飲みましたが、御膳おぜんにははしをつけませんでした。
(新字旧仮名) / 土田耕平(著)
「お支度したくが出来ました」と言っては食事の時ごとに部屋のたたきに来る仏蘭西フランス家婢かひのかわりに、ここには御膳おぜん飯櫃おはちを持って母屋の台所の方から通って来る女中がある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
早く彼処に行って、お母さんと一緒に秋刀魚と味噌汁で御膳おぜんべたいと思った。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
是は一つずつ離したやや小さな塗盃ぬりさかずきで、始めから客人の御膳おぜんごとに附いている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「お父様も、兄ちゃんも、あっちへ来て下さいって、御膳おぜんができたからサ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御膳おぜんもできておりますから、お酒が沸いたらすぐ持って来ます」
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それでは御膳おぜんにしてあげましょうか。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さあ、もう御膳おぜんげたらからう」と細君さいくんうながして、先刻さつき達磨だるままたたゝみうへからつて、人指指ひとさしゆびさきせながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
晩餐ばんさんの菜が気に入らぬと云って、御膳おぜん蹴飛けとばした。夜は十二時過に酔って帰って来ることもあった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
御膳おぜんも出来ました、すぐこれからあげます」
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「そうね。どうでもいいけども。せっかく泊ったもんだから、御膳おぜんだけでも見た方がいいでしょう」と彼女は答えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これでいて御馳走ごちそうがむやみに出る。胃の悪い余のごときものは、御膳おぜんの上を眺めただけで、腹がいっぱいになってしまう。夜は緞子どんすの夜具に寝かしてくれる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宿へ帰ったら、御神おかみさんが駅長の贈って来た初茸をつゆにして、晩に御膳おぜんの上へ乗せてくれた。それを食って、梨畑や、馬賊や、土の櫓や、赤い旗の話しなぞをして寝た。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見るとげた御膳おぜんの上にふちの欠けた茶碗が伏せてある。さい飯櫃めしびつも乗っている。はしは赤と黄に塗り分けてあるが、黄色い方のうるしが半分ほど落ちて木地きじが全く出ている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御膳おぜん火燵櫓こたつやぐらの上へ乗せまして——私は御櫃おはちかかえて坐っておりましたがおかしくって……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう云う自分にすらあまりありがたくはない御膳おぜんばかりを眼の前に浮べていたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「実はさっきの御客がまだ御帰りにならないで、御膳おぜんなどが出て混雑ごたごたしているんです」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「森本さんの御膳おぜんもここへ持って来るんだ」と云いつけて、酒を命じた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)