御神燈ごじんとう)” の例文
新字:御神灯
(略)店は二間間口にけんまぐちの二階造り、のきには御神燈ごじんとうさげてしお景気よく、空壜あきびんか何か知らず銘酒めいしゅあまた棚の上にならべて帳場ちょうばめきたる処も見ゆ。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこに紅梅の風情は無いが、姿見に映る、江一格子えいちごうしの柳が一本ひともと。湯上りの横櫛は薄暗い露地を月夜にして、お孝の名はいつも御神燈ごじんとうに、緑点滴したたるばかりであった。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふいとつてうちをば御出おであそばさるゝ、行先ゆくさきいづれも御神燈ごじんとうしたをくゞるか、待合まちあひ小座敷こざしき、それをば口惜くちをしがつてわたしうらみぬきましたけれどしんところへば、わたし御機嫌ごきげんりやうがわるくて
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これ色男がりたる気障きざな風なり。芸者が座敷より帰つて来る刻限を計り御神燈ごじんとう火影ほかげ格子戸こうしどの外より声をかけ、長火鉢ながひばちの向へ坐つて一杯やるを無上の楽しみとす。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
名物めいぶつ一つかげをして二はな紺屋こうや乙娘おとむすめいま千束町せんぞくまちしんつた御神燈ごじんとうほのめかして、小吉こきちばるゝ公園こうえん尤物まれもの根生ねをひはおな此處こゝ土成つちなりし、あけくれのうはさにも御出世ごしゆつせといふはをんなかぎりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
明治三十年の頃僕麹町一番町こうじまちいちばんちょうの家に親のすねをかじりゐたり。門を出でて坂を下れば富士見町の妓家ぎか軒先に御神燈ごじんとうをぶら下げたり。御神燈とは妓の名を書きたる提灯ちょうちんをいふなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
二、三十年前の風流才子は南国風なあの石の柱と軒のアーチとが、その陰なる江戸生粋きっすいの格子戸と御神燈ごじんとうとに対して、如何なる不思議な新しい調和を作り出したかを必ず知っていた事であろう。
銀座界隈 (新字新仮名) / 永井荷風(著)