後楯うしろだて)” の例文
けれども月日は私の元氣に後楯うしろだてをした。診察室の前の大鏡に映る、ひつつめ銀杏いちやうの青白い顏は、日に日に幾らかづつ色を直して行つた。
嘘をつく日 (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
上野介の倨傲きょごうな日ごろの振舞も吉保という重要な地位にある人間の後楯うしろだてを意識して、特に、横着ぶりを、押している風もかなり見える。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鰐淵わにぶちの名が同業間に聞えて、威権をさをさ四天王の随一たるべき勢あるは、この資本主の後楯うしろだてありて、運転神助の如きに由るのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「なんの、お前をいじめるものか、贔屓ひいきにしようというのじゃ、な、これから新撰組の隊長が、お前の後楯うしろだてになろうというのではないか」
「あの野郎は馬鹿みたいな顏をして居りますが、あれで、なか/\好いとこが御座います。萬事は私が後楯うしろだてになつて、糸を引いてやります」
安達さんも顔が潰れますけれど、私達だって元来もともと私達が後楯うしろだてになって始めたことですから、こゝで負けたんじゃ好い恥を
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いったい、どうしてくれっていうんだい? まだ君は生きているし、まだわしの後楯うしろだてっていうものがあるんだ。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
地方に勢力のあった御社や仏寺を後楯うしろだてとして、その信仰の宣伝によって生計を立てた者などは、起こりが古いからまだ家柄のように見られぬこともないが
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「だが、相手には何しろ上杉家という後楯うしろだてがある」と、小平太は今さらのように考えずにはいられなかった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
これ、後楯うしろだてがついていると思って、大分強いなと煙管きせるにちょっと背中を突きて、ははははと独り悦に入る。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「そうか」と、栗田は、案外、簡単に信用して、「そんなら訊くが、「チーハー」の胴親の島崎勇次を、玉井金五郎が、後楯うしろだてしちょるという話じゃが、ほんとうか?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
しかして感謝すべきは余は黙止しるを得べければなり、もちろん普通の情として忍ぶべきにあらざるなり、余は余の国人を後楯うしろだてとなしつとめて友を外国人に求めざりき
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
たとえ百成が俺を見限ろうとも、自分が後楯うしろだてになって面倒を見てやると姐御あねごのような口をきいた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
相反する勢力を後楯うしろだてにして兄系と弟が争い、弟が勝ったが、勝てる弟側が兄の娘を二代にわたって皇后にしたのは、背後の相反する勢力を統一するに役立ったようである。
安吾史譚:02 道鏡童子 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そうなりますには後楯うしろだてと云うものがなければなりません、商人あきんどが大きくなるには、資本もとでを貸してくれる金主きんしゅと云う者がなければ大商人おおあきんどにはなれませんものでございますが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
伊勢屋は旧い店で、身上しんしょうもなかなかいいそうですから、その後楯うしろだてが付いていりゃあ万力も困ることは無いでしょうが、抱え屋敷をしくじっちゃあ仲間に対して幅が利かねえ。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お銀はBさんという後楯うしろだてのついている笹村と、うっかりした相談も出来ないと思った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「私は、生きてゆくためには、わが国の他の人々が、たとい名門の後楯うしろだてがあろうと、いつかはしなければならないかもしれぬことをするよりほかはありません、——つまり、働くことです。」
後白河院の後楯うしろだてがあるものの、どうも形勢不利とみて、この上は、天の助けにすがるよりほかはないと思い立った成親は、男山おとこやま石清水八幡宮いわしみずはちまんぐうに、百人の坊主を頼んで、七日間、大般若経だいはんにゃきょう
「いけねえいけねえ! 殿様、ありゃたしかに今やかましい道場荒しの赤谷あかたに伝九郎ですぜ。あの野郎が後楯うしろだてになっていたとすりゃ、いかな若衆でもかなうめえから、早くなんとか救い出してやっておくんなせいな」
窺はば鎌倉の治世覺束おぼつかなかるべしなど語合ふおもへ治承ぢしようの昔し頼朝には北條時政といふ大山師おほやましが付き義經には奧州の秀衡ひでひらといふ大旦那だいだんなあり義仲には中三權頭兼遠ちうさんごんのかみかねとほといふわづかの後楯うしろだてのみなりしに心逞ましき者なればこそ京都へ度々忍びのぼつて平家の動靜を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
われわれの働くときに、われわれの後楯うしろだてになりまして、われわれの心を十分にわかった人がわれわれを見継みついでくれるということは、われわれの目下の必要でございます。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
こういう先生を後楯うしろだてに控えて行けば、ドコへ行こうと鬼に金棒だという観念がお角さんにはあるので、つまり、インテリ用心棒としての道庵先生を手放したくないのです。
お金といふ後楯うしろだてがあつて紳士道も成立つのだから、天妙教と手を切る、そのために店がにはかに衰微しちやいけないから、それとなくヨッちやんの意中をたしかめてみると
金銭無情 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
三月事件に失敗したときからこれは企てられていたことで、関東軍が中央の後楯うしろだてを頼んで事をおこしたと言いかえてもいいが、彼らはひとしく軍独裁政権の樹立をねらっていたのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
妹のお大を臺所働だいどころばたらきやら、子供のもりやら、時偶ときたま代稽古などにも使つて、あごで追𢌞してゐたものが、今では妹の方が強くなり、町内の二三の若者が同情して、後楯うしろだてになつてくれたのを幸ひ
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)