後朝きぬぎぬ)” の例文
後朝きぬぎぬのわかれも、なかなか、恋に似て、恋よりふかい。ふたりだけには、鳥の音も、霜のこずえも、この世は、そのまま詩であった。
八幡鐘はちまんがね後朝きぬぎぬは、江戸情史にあんまり有名すぎる位だ。洲崎は今の遊廓が明治になつて本郷根津ほんごうねづから移つてきてから賑はしくなつたのではなく
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
辞して出て来たその後朝きぬぎぬのことに思い到ると、何かは知らず、はらわたがキリキリと廻るような思いが起って来ました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つまり桝形は追分における、唯一の後朝きぬぎぬの場所なので、「信州追分桝形の茶屋でホロリと泣いたが忘らりょか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あるいは七月ふみつきの、「よろづの所あけながら夜をあかす」ころの、有り明けの情調を、後朝きぬぎぬの女と男とによって描いているごとき、——女は情人の去ったあと
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
夜来のおどろきと気づかいに疲れたのか——おくれ毛が二、三本、ほの蒼い頬に垂れかかって、紅のせたくちびるも、後朝きぬぎぬのわかれを思わせてなまめかしい。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
名もなまめかしき後朝きぬぎぬといふ待合の奥二階、此あついのにしめ切つて、人目を忍ぶ男女の客、いはずとしれし恋の曲者、女は男の絽の羽織をぬがせて袖だゝみにしながら
五大堂 (新字旧仮名) / 田沢稲舟(著)
その梅次と照吉とは、待宵まつよい後朝きぬぎぬ、とついくるわで唄われた、仲の町の芸者であった。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こちや先刻にから坐つたままと。起こしともない、明け鴉。かあいかあいの方様を、かうして去なすが後朝きぬぎぬか。あの汽笛めも、奥様に、似たらば、たんと鳴りおれい。ゑゑ腹が立つ、気が狂ふ。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
(この辺までは幕の開くまでに済んで)えにしも永き永代の、帰帆はいきな送り舟その爪弾きの糸による、情に身さえ入相の、後朝きぬぎぬならぬ山鐘も、ごんとつくだの辻占に、燃ゆるほむらの篝火や……
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
後朝きぬぎぬや春の村人まだ覚めぬ水を渡りぬ河下の橋
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
後朝きぬぎぬの思よりもむしろ駅路の哀感をいざなはしむ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また後朝きぬぎぬに卷きまきし玉の柔手やはての名殘よと
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
後朝きぬぎぬの釜山は船の笛を聞き同
大正東京錦絵 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
後朝きぬぎぬ、——をかかへすと
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
花のかむろが後朝きぬぎぬ
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
白粉おしろいあともないほど、巧雲こううんしょうを失った姿で寝入っていたが、後朝きぬぎぬともなれば、まだ飽かない痴語ちごも出て、男の胸へまといつく。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名残なごりが惜しまれて、後朝きぬぎぬの思いに後ろ髪を引かれたのかと思うと、必ずしもそうでもないようです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(この辺までは幕の開くまでに済んで)えにしも永き永代の、帰帆はいきな送り舟その爪弾きの糸による、情に身さえ入相の、後朝きぬぎぬならぬ山鐘も、ごんとつくだの辻占に、燃ゆるほむらの篝火や……
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
後朝きぬぎぬに、冷い拳固を背中へくらったのとはたちが違う。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また後朝きぬぎぬに巻きまきし玉の柔手やはての名残よと
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
後朝きぬぎぬの場所桝形ますがたの茶屋
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
花の乙女かむろ後朝きぬぎぬ
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「遊びの心を乗せるにふさわしい急流だ。——けれど、後朝きぬぎぬを、また、都へもどる日は、舟あしも遅いし、ものういそうだぞ」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その朝の後朝きぬぎぬから、丘下の木の丸小屋へ退がってからでも、初めて異分子でなく居る所をえた気がしていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより囚人輿には、後朝きぬぎぬの惜しみなどあろうはずもない。——彼女らは心得て、朝霧の中に離れていた。とはいえ、れぼったい今朝の顔を見ればすぐ判る。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やよ、篠笛しのぶえ。そちらの酌が先とはどうしたわけ。さきの後朝きぬぎぬを忘れてか」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)