引留ひきと)” の例文
わたしゃ又今日は相川様でお前を引留ひきとめて帰る事が出来まいと思ったから、御用は済ませて仕舞ったから、お前はすぐに殿様のお迎いにっておくれ
女は立膝たてひざして何事をか訴へ引留ひきとむるが如く寄添よりそへば、男は決然と立つてはかまひもを結び直しつつも心引かるる風情ふぜいにて打仰ぐ女の顔をば上よりななめに見下ろしたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一度、駆下かけおりようとした紫玉の緋裳ひもすそは、此の船の激しく襲つたために、一度引留ひきとめられたものである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
内儀にただすとはたせるかな、僕が前日憲兵隊に引留ひきとめられている間、数名の将校が僕の室を占領し、昨夜は一同眠りもやらず徹夜し、今朝がたになってやっと引上げて行ったとの事でした。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
誰も引留ひきとめはしなかつたが、しかし余りい心地もしなかつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
昨夜吾妻橋を通り掛りますると、友之助が吾妻橋の中央より身を投げようと致す様子、狂気の如く相成って居ります故、引留ひきとめて仔細を聞くと、御当家様へお出入になり
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひかけて——あしもずらして高足駄たかあしだを——ものをで、そつ引留ひきとめて
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ミミが何かいおうとして前へ出るのを、僕は後ろから引留ひきとめた。ニュース発表が中止されては困ると思ったからである。ミミは、僕の腕をぎゅっとつねると、イレネの方へつんと鼻をそびやかした。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かういふときだ。在郷軍人ざいがうぐんじんが、シヤツ一枚いちまいで、見事みごとくつわ引留ひきとめた。が、このおほきなものを、せまい町内ちやうない何處どこへつなぐところもない。御免ごめんだよ、たれもこれをあづからない。そのはずで。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
とすた/\小走こばしりにけてて、背後うしろからたもと引留ひきとめた、山稼やまかせぎのわかをとこがあつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
花売はなうり後姿うしろすがたのまま引留ひきとめられたようになってとまった。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)