引奪ひったく)” の例文
大方遊んでばかりいやがったのだろう、このつぶ野郎やろうめッてえんでもって、釣竿を引奪ひったくられて、げるところをはすたれたんだ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
寄せて来た裸虫も、がんりきを取って押える目的と、一つにはその青地錦を引奪ひったくろうとする目的と二つがあるように見えました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生命とも、女房とも思う女を引奪ひったくられた恋のかたきに、俺の口から切れてくれ頼むと云うは、これ、よくよくの事だ思わんですだか。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その衣嚢かくしに手を突き込んだり、茶色の紙包みを引奪ひったくったり、襟飾りに獅噛み着いたり、頸の周りに抱き着いたり、背中をぽんぽん叩いたり
よくも揃った非道な奴らだと、かッと逆上のぼせて気も顛倒てんどう、一生懸命になって幸兵衛が逆手さかてに持った刄物のつかに手をかけて、引奪ひったくろうとするを
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ルパンが飛びかかって二人を引き分けようとする時、早くもジルベールは相手を組み伏せてルパンの気付かぬ間にその手から何ものかを引奪ひったくった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
返してくれといいだして、僕が大切だいじにしていた文束を引奪ひったくるように取って行ったのです。それで僕の小説は、どうしても結末のつかぬものになってしまいました
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
今朝もエドワード夫人が手紙を受取って、母さんのところへ持っていったら、平常の母さんに似合わず、引奪ひったくるようにしてそれを持って、二階へ引込んでおしまいなすったのです
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
締めようとする帯を、引奪ひったくったから此方もカッとして殴り倒して大急ぎで飛出して、直に越前屋へ行きました。エエ、火事だと言われた時には、越前屋でラジオを聞いてたのです。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
引奪ひったくるように海老団治の古手拭を取り上げて六十円だけその中へしまうと
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
厭なんだよ額が出張ってと云うを婢は覗き込んで意味なく笑って居たが、いきなり引奪ひったくって貞之進へ突附け、あなたに上げましょうと婢が出したを、それはいけないのよと小歌が取返そうとする
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
阿倍仲麻呂あべのなかまろが、たった一つ和歌を作っただけであるのに、その一つを、疝気せんき持ちの定家さだいえ引奪ひったくられ、後世「かるた」というものとなって、顔の黄ろい女学生の口にかかって永久に恥をさらして居る。
死の接吻 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
此奴が駈込んで参り突然いきなり予が持っていた箸を引奪ひったくって庭へ棄てた、これとりも直さず兄上を庭へ投げたも同じ事じゃから免さん、それへ直れ、しからん奴じゃ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お前さんぐらいな年紀恰好としかっこうじゃ、小児こどもの持っているものなんか、引奪ひったくっても自分がほしい時だのに、そうやってちっとずつみんなからもらうお小遣で、あのに何か買ってくれてさ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と今箸を取りにかゝる処へ駈込んで来たのは川添富彌、物をも云わず紋之丞様が持っていた箸を引奪ひったくって、突然庭へ棄てた時には老女も驚き、殿様もきもつぶしました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あれ、お待ちなさい」と、下〆したじめをしたばかりで、と寄って、ブラッシを引奪ひったくると、窓掛をさらさらと引いて、端近で、綺麗に分けてやって、前へ廻ってのぞき込むように瞳をためて顔を見た。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仲間ちゅうげんは此のに帯の間にはさんで有りました金入かねいれ引奪ひったくり「是をられてはわたくしが」といううち武士さむらいは□□ってしからん振舞をしようとする処へ通り掛った一人いちにん粥河圖書かゆかわずしょ
の女は悪党でございますから、突然いきなりに番頭の手拭を引奪ひったくって先へ上って仕舞いましたゆえ、番頭はの手拭を八つに切って一ツはお守へ入れてくれるだろうと思っていると大違いで
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
無理やりに引奪ひったくられましたから、大切な物でもへえってろうかと心配して居ります
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)