びさし)” の例文
どこかとほつたことがある樣な道の眞ン中に立つてゐるにれの樹かげから、脊の高いおほびさしのハイカラ女が出て來る。お鳥の樣だが、然しお鳥ではない。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
びさしから雨だれの烈しく落ち飛沫しぶいている下に、藤吉郎はうずくまって訴えた。感動しやすい若い女性は、それだけでもう心がうごいたようだった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだあるじの声もすがたも見えないうちから、年景は、荒れ果てた配所のびさしへ向って、いんぎんにこうべを下げている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「色が白いだけ、さ——お前のおほびさしと顏の造作ぞうさくとが釣り合つてゐない。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
薪の間にしていた頼朝は、夜明けも知らず睡っていた。やぶびさし氷柱つらら越しに、朝の光がその寝顔にさしていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表門へ掛けた梯子の突端とったんが、その光景を睨まえているかのような月を貫いていた。第一にその光から屋根びさしへ飛び移って行ったのは、大高源吾であった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうなると、つねの怯者きょうしゃ勇士ゆうしになるものだ。伊部熊蔵いのべくまぞうはカッといかって、中断ちゅうだんされたなわのはしから千ぼんびさしくさりにすがって、ダッ——と源氏げんじへ飛びこんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この上は、まだ華雲殿の内かもしれぬと、諸侯ノ間、侍者ノ間、石庭せきてい曲廊きょくろうまでを探しあるいた。すると、小御所の控えびさしに、ひとり寂然じゃくねんと坐っている女性があった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「印が? ……」と万太郎は、廻廊の千本びさしをふり仰ぎましたが、種々雑多な千社札の数あるうち、どれが目明し仲間の暗合符あんごうふだだかそれらしいのは一向に見出せない。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荒壁の破れびさしだが、板縁をけて、離れている。そこの一燈火あかりがつく。梅軒は坐るとすぐ
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほのかな月が、びさしからしこんでくる。裏の菜種畑の花から、甘いにおいもしのび込む——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、朽ち荒れた雪見ノ亭のびさしやら、そこらの物蔭へ、つぶさな眼を凝らしはじめた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふり仰ぐと、堂閣の千ぼんびさしに、びた金色の仏龕ぶつがんが、ほの明るく廻廊を照らしている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒屋の軒をのぞき廻ること二、三軒。どこでも例外なくお断りを食った。そこでついに街はずれまででてしまい、ふと見ると破れびさしから、酒と書いた旗をだしている一軒がまたあった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とふたりは、東のすみの欄干に足をかけたが、そこから九りんのたっているとうのてっぺんへのぼるには、どうしても、千本びさしにつってある瓔珞ようらくに身をのばして、ブラさがるより道がない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たきぎをかこい、食糧を蓄え、そして雪除ゆきよびさしの下に、里では冬を籠る支度だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜もすがら、木の葉雨がわらわらと、びさしを打つので、時折、眼がさめる。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、百姓家ひゃくしょうやのやぶれびさしの下から、白い煙がスーッとはいあがっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉が大きく云ったとき、天守の千本びさしは、巨大な焔の傘となっていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
消えかかる燈芯とうしんに、ふと、振顧って、びさしから夜空を見上げながら
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ポトポトと、そこらの松やびさしから、露が降っていた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨は蕭々しょうしょうと、びさしを打ちつづけている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)