巳年みどし)” の例文
承応しょうおう巳年みどし八月十一日の黄昏ゆうぐれのことであった。与右衛門よえもん夫婦は畑から帰っていた。二人はその日朝からいていた豆を数多たくさん背負っていた。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
天保てんぽう四年はみずのと巳年みどしで、その夏四月の出来事である。水戸みと在城ざいじょう水戸侯みとこうから領内一般の住民に対して、次のやうな触渡ふれわたしがあつた。
梟娘の話 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「つがもねえ。急という字があって、その下に巳年みどしの男、二十一歳と書いてあったじゃござんせんか。それがいったいどうしたというんですかよ」
手をのべてその絵馬を取外とりはずし、なお念のために、その絵馬の裏を返して見ますと、そこには、これも相当の老巧な筆で、単に「巳年みどしの男」としたためられてあるのを発見しました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夫婦むつまじく豊かに相暮しましたが、夫婦の間に子が出来ませんので、養子を致して、長二郎の半之助は根岸へ隠居して、弘化こうか巳年みどしの九月二日ふつかに五十三歳で死去いたしました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
就中なかんずく去る天保てんぽう巳年みどし、同七申年さるどし再度の凶年にて死亡離散等の数多くこれあり、宿役相勤めがたきありさまにまかりなり候えども、従来浅からざる御縁故をもって種々御尽力を仰ぎ
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
立去たちさらんと心に思ひさだめける頃しも享保きやうほ巳年みどし十二月二十六日の事なりし加納屋方にて金四十七兩二分細川家ほそかはけの役所より請取うけとるべき事あり右の書付かきつけしたゝめ吉兵衞に其方此書付に裏印形うらいんぎやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お蔦 あの、私は巳年みどしで、かねて、弁天様が信心なんです。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巳年みどしだから、私に似て執念ぶかいかも知れませんね。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
巳年みどしと云ふと、とかく執念深いだらう。」
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
お絹が天明五年巳年みどしの生まれであるということも思いあわされて、林之助は迷信的にいよいよ怖ろしくなった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ほほうな、巳年みどしの男、二十一歳という文字もちゃんと書いてあるな。どうやらこの様子だと」
享保十巳年みどしくれ明ればおなじき十一午年うまどしの元日天神丸てんじんまるには吉兵衞はじめ船頭杢右衞門もくゑもん水主かこ十八人水差みづさし一人都合つがふ二十一人にて元日の規式ぎしきを取行ひ三が日のあひだ酒宴しゆえんに日を暮しおのが樣々のげいつくしてきよう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何となく気分がすぐれませんので、諸方から種々いろ/\注文がありましても身にしみて仕事を致さず、其の年も暮れて文政四巳年みどしと相成り、正月二月と過ぎて三月の十七日は母親おふくろの十三年忌に当りますから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「絹ちゃんより少し若い。巳年みどしだ」
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
巳年みどしの男、二十一歳と、墨色あざやかにわら人形の背に書いてあるのです。
「あたし、巳年みどしでないから駄目ですわ」
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)