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小遣錢
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こづかひせん
然しそれを
誰も
見ては
居なかつた。それでも
彼は
空虚な
煙草入を
放すに
忍びない
心持がした。
彼は
僅な
小遣錢を
入れて
始終腰につけた。
苛々しながら、たわいのない、
恰も
盆とお
正月と
祭禮を、もう
幾つ
寢ると、と
前に
控へて、そして
小遣錢のない
處へ、ボーンと
夕暮の
鐘を
聞くやうで、
何とも
以て
遣瀬がない。
手桶で
持ち
出すだけのことだから
資本も
要ない
代には
儲も
薄いのであるが、それでも
百姓ばかりして
居るよりも
日毎に
目に
見えた
小遣錢が
取れるのでもう
暫くさうして
居た。
煙草入は
虚空であつた。
彼は
自分の
體力が
滅切と
減て
仕事をするのに
手が
利かなくなつて、
小遣錢の
不足を
感じた
時、
自棄に
成つた
心から
斷然其噛む
程好な
煙草を
廢さうとした。