小汚こぎた)” の例文
空家あきやへ残して来た、黒と灰色とのまだらの毛並が、老人としよりのゴマシオ頭のように小汚こぎたならしくなってしまっていた、老猫おいねこのことがうかんだ。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
尤もさう言ふお朝といふ女は、ふとじしで赤ら顏で、充分色つぽくはあるだらうが、何んとなく小汚こぎたない感じのする中年増です。
要するにすたれて放擲られた都會の生活のかす殘骸ざんがい………雨と風とに腐蝕ふしよくしたくづと切ツぱしとが、なほしもさびしい小汚こぎたないかげとなツて散亂ちらばツてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
姉は健三のために茶の間の壁を切り抜いてこしらえた小さい仏壇を指し示した。薄暗いばかりでなく小汚こぎたないその中には先祖からの位牌が五つ六つ並んでいた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、素人眼しろうとめには下手へた小汚こぎたなかったから、自然粗末に扱われて今日残ってるものは極めてまれである。
ドクトル、アンドレイ、エヒミチはベローワとをんな小汚こぎたないいへの一りることになつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
好きになるということは恐ろしいことに違いない、どこにもこの男にすぐれたところなぞなく、怠け者で小汚こぎたないが、受け答えの返事の声が、ずば抜けて早く大声で元気だった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
こっちじゃア大切なものだが、何も知らねえおめえらの手にありゃあ、ただの小汚こぎたねえ壺だけのもんだ。小父ちゃんが褒美ほうびをやるから、サ、チョビ安、器用に小父ちゃんに渡しねえナ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かおはとうにあらっていたが、藤吉とうきち眼頭めがしらには、目脂めやに小汚こぎたなくこすりいていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
小汚こぎたない服装みなりをした鼻垂はなたらしではあったが犬のように軽快な身のこなしで、群れを作ってほしいままに遊び廻っているのが遊び相手のない私にはどんなに懐かしくも羨ましく思われたろう。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「お言葉だがネ親分、梅の花なんざ、小汚こぎたねえばかりで面白くも何ともねえが、御馳走と新造付なら考へるぜ」
面胞にきびだらけの小汚こぎたない醜男ぶおとこで、口は重く気は利かず、文学志望だけに能書というほどではないが筆札だけは上手じょうずであったが、その外には才も働きもない朴念人ぼくねんじんであった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ドクトル、アンドレイ、エヒミチはベローワとおんな小汚こぎたないいえの一りることになった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すると広い牧場のようなところに、馬が三匹立っていた。それがいずれも小汚こぎたない駄馬だうまだったのではなはだ愉快であった。のみならず、そのうちの一匹がどうしても大重君を乗せようと云わない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あつしの方は手紙ぢやありません。人間の小汚こぎたなくヒネたのが、叔母をたよりにやつて來ましてね」