寂寥せきれう)” の例文
次第に幼い頃の空気がかれの心の周囲に集りかもされて来るのを覚えた。最早始めに来た時に感じたやうな「孤独」と「寂寥せきれう」とをかれは感じなかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
停車場ていしやぢやう、ホテル、舞踏場ぶたうぢやう、如何なる所にてもよし、かの燦爛たる燈火の光明世界を見ざる時は寂寥せきれうに堪へず、悲哀に堪へず、あたか生存せいぞんより隔離されたるが如き絶望を感じ申候まをしそろ
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
陰鬱いんうつ! 屈托くつたく! 寂寥せきれう! そしてぼくには何處どこかに悲慘ひさんかげさへもえるのである。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
我が恋ふ人のたまをこゝに呼び出すべきかをりにてもなければ、要もなし、気まぐれものゝ蝙蝠かうもり風勢ふぜいが我が寂寥せきれうの調を破らんとてもぐり入ることもあれど、捉へんには竿なし、し捉ふるとも
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
村落むらものつたあとにはちひさな青竹あをだけ線香立せんかうたてからそこらの石碑せきひまへからぢり/\といてくるしんでもだえるやうにけぶりはうねりながらのぼつて寂寥せきれうたる黄昏たそがれひかりなか彷徨さまようた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
故に唯物論者の経験すべき苦痛、寂寥せきれう、失望を味はざる也。彼等が憲法を説くや亦唯憲法として之を説くのみ、未だ嘗て憲法国の民として之を論ぜざる也、故に其言人の同感を引くに足らざるなり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
銀のごと時にひろごる網の目はこれ寂寥せきれうまなこなりけり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
もの鬱として、寂寥せきれうのきはみを盡すをりしもあれ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
寂寥せきれうの中で見開く眼がある
(新字旧仮名) / 片山敏彦(著)
寂寥せきれう
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
寂寥せきれうの思ひをなし、辛い悲しい思ひをするものは、(曾ては私もその一人であつた)矢張また我に着し、我に染まつてゐるところがあるからであつて、まだ本当に
孤独と法身 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
夕日の國は野も山も、その「平安へいあん」や「寂寥せきれう」の
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
日は真昼まひる——野づかさの、寂寥せきれうしんざうにか
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
やされたる心の寂寥せきれうから起つて来る憧憬しようけい、これは実は一つであるのではないか。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
落日らくじつあへ寂寥せきれうに鐘鳴りわたり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
高樫たかがし寂寥せきれうの森の小路よ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)