奔流ほんりゅう)” の例文
この猛烈なる悪態あくたいで浮足立った人が総崩そうくずれになって、奔流ほんりゅうの如く逃げ走る。兵馬に槍を貸すことを謝絶ことわった役人連中までが逃げかかる。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、民部みんぶ采配さいはいは、それに息をつくもあたえず、たちまち八しゃの急陣と変え、はやきこと奔流ほんりゅうのように、えや追えやと追撃ついげきしてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だんだん山間の溪流に沿うて降って行きますと、奔流ほんりゅうの岩に激して流るるその飛沫とばしりが足もとに打付けるという実に愉快なる光景であります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
宇宙レンズで、強力なる宇宙線の奔流ほんりゅうをこのロケットにあびせかけたとき、どうなるかをひそかに診察しているわけだった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
現代思潮の変遷はその迅速なること奔流ほんりゅうもただならない。あしたに見て斬新となすものゆうべには既に陳腐となっている。槿花きんかえい秋扇しゅうせんたん、今は決して宮詩をつくる詩人の間文字かんもじではない。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は「運」を奔流ほんりゅうにたとえている。ひとたび奔流が荒れくるうときは、平野に氾濫はんらんし、木々や家々を倒し、大地をも強引に押し流す。万人が恐れむとも、いかに抗すべきやを知らない。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
滝のような勢いで、しぶきをとばせながら、奔流ほんりゅうが、氷原の上を、大蛇のようにのたうち廻っていた。この氷冠の融解は、八月上旬この地を去る時まで、ほとんど減退の様子を見せていなかった。
白い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
べにと緑の光弾、円蓋えんがい火箭ひや、ああ、その銀光の投網とあみ傘下からかさおろし、爆裂し、奔流ほんりゅうし、分枝ぶんしし、交錯し、粉乱ふんらんし、重畳ちょうじょうし、傘下からかさおろし、傘下し、傘下し、八方に爛々らんらんとして一瞬にしてまた闇々あんあんたる、清秀とも
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
同時にそれに力を得、官軍の猛将薛元輝せつげんきもまた、城の一門を押しひらかせ、金甲鉄鎗きんこうてっそうの光り燦々さんさん奔流ほんりゅうとなって敵中へむかって吶喊とっかんして行った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天井から、奔流ほんりゅうする水は、ものすごく、まるで天竜川てんりゅうがわのようであった。一郎の膝の下は、たちまち水の中につかってしまった。そうなると、もう、逃げだすことも出来なかった。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、もし徳川方がこれを失えば、伊勢、尾張、小牧の全局面にわたり、忽ち、奔流ほんりゅうに堤を切られたような、敗土はいどそうを、まぬがれぬことになる。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「溺死です。あの奔流ほんりゅうに流され、便所のわきで水中にぼっしました。気の毒な博士……」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寄手の陣地も、味方の城も、いまは銃声一つなく、深い静寂しじまの底にある。——淙々そうそうとつねに遠く聞えるのは、石垣の根を洗ってゆく滝川の奔流ほんりゅうだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当然——謙信、旗本勢に続いて、ほかの散隊も、どっと後から駆け合せ、ここに一筋、激浪中の奔流ほんりゅうをもりあげた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犬山城いぬやまじょうの白壁を目あてに、曠野の道を、ここまでは来たが、川原を歩いても、小舟はなし、木曾きそ奔流ほんりゅうは、瀬や岩々に、白いしぶきをげきし、いくら大胆なかの女でも、渡りも得ず
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲冑の奔流ほんりゅうが、諸門から往来へ、溢れ出ていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)