夢想むそう)” の例文
欧羅巴ヨーロッパで十六、七世紀の頃行った事を、今日なお夢みているものもあるか知らぬが、もはやかくの如き夢想むそうは一てきすべきである。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
あんな悲慘事ひさんじ自分じぶんむらおこつたことを夢想むそうすることも出來できず、翌朝よくあさ跡方あとかたもなくうしなはれたむらかへつて茫然自失ぼうせんじしつしたといふ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
しかし最後へ来て、この些細ささいらしくみえるのが、事件解決の一つの鍵となろうとは二人もこの時は夢想むそうだもしなかった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして神前において、会得したこの杖術を、自ら夢想むそう流と称し、人はてまえを呼んで、夢想権之助といっております
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにを考えるともなくぼんやり夢想むそうしている時でも——彼はいつも、くちじ、ほほをふくらし、くちびるをふるわして、つぶやくような単調たんちょうおとをもらしていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
が、よもやおのが垣根かきねそとに、二人ふたりおとこしめあわせて、をすえていようとは、夢想むそうもしなかったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
肉体の関係ということにもいろいろある佐助のごときは春琴の肉体の巨細こさいを知りつくしてあます所なきに至り月並の夫婦関係や恋愛関係の夢想むそうだもしない密接な縁を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
空気銃は小学校時代の夢想むそうだったが、お父さんがあぶながって買ってくれなかった。いまそれが自由に使えるのである。学友でも子供だ。自分の楽しみが先に立つ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こうしてわたしが、夢想むそうにふけりながら雲の中を見上げますと、そこが明るくなりました。それは一すじの月の光でした。けれども、その光はすぐまた消えてしまいました。
正夫が巡礼じゅんれいのあとをつけていったので、私は一人でぼんやり夢想むそうにふけりました。
山の別荘の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
パリの町の中に深くはいればはいるほど、見るものごとにわたしのおさな夢想むそうとだんだんへだたるようになった。こおりついたみぞからは、なんともいえないくさいいきれが立っていた。
まったく夢想むそうもしなかった出来事できごとに、おせんは、そのこしえたまま、ぐには二のげなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
われ等の生活上の科学を、次の世界を夢想むそうする科学を、われ等の生命を脅かす科学を、その他いろいろな科学を土台として、科学小説はいまや呱々ここの声をあげようとしている。
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おいいつけに依りまして、即日宮本武蔵なる牢人の身は、秩父ちちぶ牢舎ろうしゃより放ちました。折から、迎えに見えた夢想むそう権之助なる者に、ねんごろに、誤解の由を申して、引渡しましてござります」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは正に、夢想むそうもしない罪科であった。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)