十手じって)” の例文
しかし子供達こどもたちは、縄切なわきれや、おもちゃの十手じってをふりまわしながら、あちらへはしっていきました。子供達こどもたち盗人ぬすびとごっこをしていたのでした。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「これだ」ふところをのぞかせた。紺房こんぶさ十手じってがある。「目明めあかし」と聞くと、多市は何思ったか、振りきって、また一散にそれてしまった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙な差出口さしでぐちをする男であるが、べつだん懐中から十手じってが飛び出しそうにもないから、これには何か仔細しさいがあるだろうと七兵衛は
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは十手じって捕縄とりなわ功徳くどくでした。どんな物騒な野郎も、お上の御用を勤めているとわかってる八五郎を誘う気遣いはありません。
七造は息をせきながら手を振り、ふところからずり落ちそうになった十手じってを、危なく押えて「いません」と云った。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしのお話はいつでも十手じって捕縄とりなわの世界にきまっていますけれども、こちらの方は領分がひろいから、色々の変った世界のお話を聴かせてくれますよ。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
八年前、英ヘンリー・ダイヤー、『大日本』という書を著わし、欧米で巡査の十手じってを振らねば治まらぬ群集も、日本では藁の七五三繩しめなわ一つで禁を犯さず、と賞賛せり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
これ、その日見物けんぶつのなかにまぎれこませておいた菊池半助配下はいか伊賀衆いがしゅう小具足こぐそく十手じってうでぞろい、変装へんそう百人ぐみの者たちであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十手じってに物を言わせて、いきなり奥へ通ると、廊下の突き当りの部屋に、主人の死骸はそのままになっております。
「おれ達は十手じってを持っている人間だ。おれ達の前で物を隠すと為にならねえぞ」と、吉五郎は嚇すように云い聞かせた。「そこでお前の親父はどうした。まだ帰らねえのか」
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は相手がなに者だか知らなかったが、唾を吐きかけられた目明しは怒り、十手じってでさんざんに打ちすえたのち、子分の者に栄二を縛らせ、足蹴あしげにしたり、手桶ておけの水をぶっかけたりして突き転がした。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
役人二人は床の間を背にして大火鉢の前に睥睨へいげいしている左右に、用人、若党のようなのが居並んで、その前には望月の若主人が両手を後ろへ廻されて、その間を十手じってでコジられて苦しがっています。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たちまち氷雨ひさめのごとく降りかかる十手じっての雨。——かける足もとを、からみたおす刺股さすまた、逃げるをひきたおすそでがらみ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さア、それがわかれば、私も十手じって捕縄とりなわを預かるが、——近頃は暮しも楽ではないから」
懐ろから飛び出した銀磨ぎんみがきの十手じって
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「へい」というとふすまいた。炉べりに紅殻べにがら十手じってが置き放してある。暇にあかして磨きをかけていたのだろう、十手が燦然さんぜんと光ってみえる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十月の素袷すあわせ平手ひらてで水っぱなで上げながら、突っかけ草履、前鼻緒がゆるんで、左の親指が少しまむしにはなっているものの、十手じってを後ろ腰に、刷毛先はけさきいぬいの方を向いて、とにもかくにも
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
同時に、山目付の十手じってや大小もかざもの同様になってあるくかがしに過ぎない訳にもなる。
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言え。金持の用心棒になるくらいなら、俺は十手じって捕縄とりなわを返上して、女房に駄菓子でも売らせるよ。向島へ誘い出そうというのも佐渡屋に誘われたのじゃないか。あすこには結構な寮がある筈だが
いいも終らぬうちトラ河豚ふぐは、十手じってを示して、かれに縄を打てと部下に命じた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あっしはもう十手じって捕縄とりなわを返上してしまいますよ、親分」
奥庭おくにわまでは白壁門しらかべもん多門たもん、二ヵしょ難関なんかんがまだあって、そこへかかった時分には、いかに熟睡じゅくすいしていたさむらい小者こものたちも眼をさまし、警鼓けいこ警板けいばんをたたき立て、十手じって刺股さすまたやり陣太刀じんだち半弓はんきゅう袖搦そでがら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十手じってを持ったもの、棒を持ったものなど、物々しい数だった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
投げ十手じって
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)