加持かじ)” の例文
「……ぜひ、御息女へ祈祷の加持かじをしてさし上げたい。ご心配の中ではおわそうが、ともあれ病間へお取次ぎくだされたい」と。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
覚念坊かくねんぼうの蛇除のお加持かじは、たいへんにいやちこだというので、さっそく迎えて加持をさせたところ、これは、金井の蛇塚の蛇姫様へびひめさまを殺した祟りで
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
また物怪が一時的に絶息をさせたのかもしれぬと僧たちは加持かじに力を入れたのであるが、今度はもう何の望みもなく終焉しゅうえんていはいちじるしかった。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
が、お敏が知ってからは、もう例の婆娑羅ばさらの大神と云う、怪しい物の力を借りて、加持かじや占をしていたそうです。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すべて加持かじとか祈祷きとうとかいうものは、受ける人の心の信不信によって、効験があったりなかったりします。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから明日のお山が無事に済ませるようにと皆中座の前に放射状に足を投げ出して御幣でお加持かじをして貰う。これは足の疲れを癒す為で、私も一緒にやって貰いました。
木曾御岳の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
加持かじ、祈祷のあらん限り、手をつくし品を換えての御介抱で御座いましたが、定まる生命いのちというものは致し方のないもので、去年の夏もようように過ぎて秋風の立ちまする頃
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ついに加持かじ祈祷きとうを頼むようになるが教育者が今ごろ急に思い立ったかのごとくに、神社仏閣をあがめるようになったのは、あるいは世道人心の敗頽に対して種々の救治策を試みて
教育と迷信 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
と南平が承知したから、自分のウチへつれて帰って、伝授をうけ、まず稲荷いなりを拝む法から始めて、加持かじの法、摩利支天まりしてん鑑通かんつうの法など、その他いろいろ二カ月に残らず教えてもらった。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼は加持かじ祈祷きとう御封ごふう虫封むしふうじ、降巫いちこたぐいに、全然信仰をつほど、非科学的に教育されてはいなかったが、それ相当の興味は、いずれに対しても昔から今日こんにちまで失わずに成長した男である。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
容易たやすく子を得る方法と、安産の加持かじをして下さるということをいいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
田舎爺いなかじじい加持かじのお水を頂いて飲んでいるところだの、蝋燭ろうそくのあがった多くの大師の像のある処の前にたたずんでみたりした。木立の中には、海軍服を着た痩猿やせざる綱渡つなわたりなどが、多くの人を集めていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ではお上人しょうにん、一つ加持かじをしてみてください。」
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
大臣は大和やまと葛城かつらぎ山から呼んだ上手じょうずな評判のある修験者にこの晩はかみ加持かじをさせようとしていた。祈祷きとう読経どきょうの声も騒がしく病室へはいって来た。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この不思議な加持かじのし方を眺めている私どもには、かれこれものの半時もたったかと思われるほどでございましたが、やがて沙門が眼を開いて、脆いたなり伸ばした手を
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「あ。では新宮から、わざわざお招きした山伏どのか。……では大殿のご病気のお加持かじにでも」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
糧米を分け薬湯やくとうを与え城中の武士を引卒して自分から親しく罹災者りさいしゃを見舞い、神社仏閣へ使者を遣わし加持かじ祈祷きとうを行わせ、ひたすら病魔の退散と罹病者の平癒へいゆを願うのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
迷信家の細君は加持かじ、祈祷、占い、神信心かみしんじん、大抵の事を好いていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
加持かじ祈祷は思いもより申さぬ
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
加持かじをする僧などが近くへ来て、母の夫人や大臣も出てくるふうで、騒がしくなったので大将は泣く泣く辞し去った。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
神将 我々はあめした陰陽師おんみょうじ安倍あべ晴明せいめい加持かじにより、小町を守護する三十番神さんじゅうばんじんじゃ。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
源氏は瘧病わらわやみにかかっていた。いろいろとまじないもし、僧の加持かじも受けていたが効験ききめがなくて、この病の特徴で発作的にたびたび起こってくるのをある人が
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あの沙門の加持かじを受けますと、見る間にその顔が気色けしきやわらげて、やがて口とも覚しい所から「南無なむ」と云う声が洩れるや否や、たちまち跡方あとかたもなく消え失せたと申すのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「夜居の加持かじの僧のような気はしても、まだ効験を現わすだけの修行ができていないから恥ずかしいが、逢いたがっておいでになった顔をそこでよく見るがいい」
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
そこで仔細しさいを聞いて見ると、この神下しの婆と云うのは、二三年以前に浅草あたりから今の所へ引越して来たので、占もすれば加持かじもする——それがまた飯綱いづなでも使うのかと思うほど
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どんな悪い影響が自分の新しい幸福の上に現われてくるかもしれないと、大将は夫人に腹をたてながらも、もう夜中であったが僧などを招いて加持かじをさせたりしていた。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
驚きながらもえみを含んで源氏を見ていた。非常に偉い僧なのである。源氏を形どった物を作って、瘧病わらわやみをそれに移す祈祷きとうをした。加持かじなどをしている時分にはもう日が高く上っていた。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
どうなることかと院は御心配になって祈祷きとうを数知らずお始めさせになった。僧を呼び寄せて加持かじなどもさせておいでになった。どこが特に悪いともなく夫人は非常に苦しがるのである。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)