剽窃ひょうせつ)” の例文
旧字:剽竊
外国の文学思想を輸入すべしといふ事、外国の文学を剽窃ひょうせつせよといふにあらず。剽窃にあらずして輸入する事、歌人の腕次第なり。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
成島柳北なるしまりゅうほくが仮名まじりの文体をそのままに模倣したり剽窃ひょうせつしたりした間々あいだあいだに漢詩の七言しちごん絶句をさしはさみ、自叙体の主人公をば遊子ゆうしとか小史とか名付けて
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文学上の作品などでも、よくこれに類した「剽窃ひょうせつ問題」が持ち上がる事がある。大文豪などはほとんど大剽窃家である。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「これはゲエテの『ミニヨンの歌』の剽窃ひょうせつですよ。するとトック君の自殺したのは詩人としても疲れていたのですね。」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「瀧口入道」は平家物語の一節を焼き直して文章までも剽窃ひょうせつしたもの、「釈迦」も同じくお経の文句をそのまゝ仮名交り文に引き伸ばしたやうなもの
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
同じ題が出ては前の募集句を見ておかねば剽窃ひょうせつの煩いあり、また同じ題ばかりでは投書家の詩想広くならぬ憂あり。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
模倣が程度のものであることも知らない、剽窃ひょうせつが盗賊の親類であることも知らない。どだい、こういう恥を知らぬ化け物国に、大きな精霊の生れたためしがあるか。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
読まれたるもの、語られたるもの……描かれたるもの……についての剽窃ひょうせつに日は過ぎていく。すべてについて、そして何もののためにでもなく問われかつ答えられる。
絵画の不安 (新字新仮名) / 中井正一(著)
何某という軍医、恙の虫の論になどえて県庁にたてまつりしが、こはところの医のを剽窃ひょうせつしたるなり云々。かかることしたりがおにいいほこるも例の人のくせなるべし。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大伴黒主おおとものくろぬしが、とうてい小町には敵わないと思ったものですから、腹黒の黒主が、小町の歌が万葉集のを剽窃ひょうせつしたものだと称して、かねて歌集の中へ小町の歌を書きこんでおき
「草紙洗」を描いて (新字新仮名) / 上村松園(著)
Pirate という言葉は、著作物の剽窃ひょうせつ者を指していうときにも使用されるようだが、それでもかまわないか、と私が言ったら、馬場は即座に、いよいよ面白いと答えた。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
君たちは何ももっていない、フランスにおいて何ももっていない。自分の民衆に歌を与えんと欲するときに、君たちはドイツの過去の大家らの音楽を剽窃ひょうせつしなければならないではないか。
如何にも禅僧の遺偈を想わせるもので、死に臨み徹した悟入ごにゅうがあったようにも受取れるが、近時歴史的考証が進むにつれ、何とそれが他人の遺偈からの剽窃ひょうせつである事がわかりがっかりする。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ほとんどみな支那小説の影響をこうむっていない物はないと言ってもよろしいくらいで、わたくしが一々いちいち説明いたしませんでも、これはなんの翻案ほんあんであるか、これはなんの剽窃ひょうせつであるかということは
その困惑の表情たるや、教室に於ける落第生よろしくである。「一粒の麦地に墜ちて死なずば……。」この聖句を暗誦して澄ましていてもいいのだが、それではあまりに剽窃ひょうせつたることが明らかである。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
書きつけ帰りただちにその句の特色を模倣してむしろ剽窃ひょうせつして東京の新聞雑誌に投じまたは地方の新聞雑誌に投じただそのおくれん事を恐る。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
例えば文展ぶんてんや帝展でもそんな事があったような気がする。それにつけて私は、ラスキンが「剽窃ひょうせつ」の問題について論じてあった事を思い出して、も一度それを読んでみた。
浅草紙 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それをやるには誘惑を試みなければなりません、剽窃ひょうせつをも試みなければなりません。近代の芸術はそこで堕落が始まりました。かれらは作物さくぶつを模倣し、盗用することは平気です。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
万事窮して、とうとう悪事をたくらんだ。剽窃ひょうせつである。これより他は、無いと思った。胸をどきどきさせて、アンデルセン童話集、グリム物語、ホオムズの冒険などを読みあさった。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すなわち彼らは彼を剽窃ひょうせつ者だといた。彼の作品や無名な音楽家らの作品の中から、勝手な部分を選み取ってきていい加減に変装さした。そして彼は他人の霊感インスピレーションを盗んだのだと証明した。
右は近重物安博士や現南禅寺師家柴山全慶師らの研究によるから、誤伝とはいいかねる、どうも他の行状を見ても、こんな剽窃ひょうせつはやりかねない人間であったと思える。清浄な人為からはおよそ遠い。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
選者もしその陳腐剽窃ひょうせつなることを知らずして一句にても二句にてもこれを載すれば、投句者は鬼の首をたらん如くに喜びて友人に誇り示す。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そこではクリストフは、自己の芸術の文法を知らず、和声ハーモニーに無知であり、仲間の作品から剽窃ひょうせつし、音楽を汚す者であるとして、誹謗ひぼうされていた。「あの荒くれ老人……」と呼ばれていた。
ていのいい剽窃ひょうせつなんでげしてね、向うの趣向をとって、こちらのものにする、なかなか考えたものなんでげすが、独創家のいさぎよしとするところじゃあがあせん、いやしくも創作を致す以上は
昔、ラスキンが人から剽窃ひょうせつ呼ばわりをされたのに答えて、独創ということも、結局はありったけの古いものからうまい汁を吸って自分の栄養にしてからの仕事だというような意味のことを言った。
俳諧瑣談 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これは単に雪の題ならば俗俳家が古人の雪の句を剽窃ひょうせつし来り、または自己の古き持句を幾度いくたびも出さんとする者多き故にこれを予防するの策なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
創造の精神が滅びた時に、剽窃ひょうせつの技巧が盛んになる。このままで進めば、日本国民は、挙げて掏摸すりのようなものとなってしまい、掏摸のような者を讃美迎合しなければ、生活ができなくなってしまう。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は俳句に得たると同じ趣味を絵画に現したり、固より古人の粉本ふんぽんを摸し意匠を剽窃ひょうせつすることを為さざりき。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この場合にはいづれを原作としいづれを剽窃ひょうせつとせんか、ほとほと定めかねて打ち捨つるを常とす。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
同一の意匠と同一の語句とを並列してあえ剽窃ひょうせつの恥を知らず、はなはだしきは自家集中にさへ同一の意匠言語を繰り返して以て自ら得たりとなすが如き、後世よりしてこれを見れば
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)