公案こうあん)” の例文
いかに知を養い知を脱すべきか、これがすべての作家に課せられている公案こうあんである。これを解くことなくして、美を産むことはできない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼から云うといわゆる公案こうあんなるものの性質が、いかにも自分の現在と縁の遠いような気がしてならなかった。自分は今腹痛で悩んでいる。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婆子焼庵ばししょうあん」(禅の本で五燈会元というのに書いてある老婆が庵を焼く話)という題で、禅家の方の公案こうあん(禅宗の師匠が弟子に与えて修業させる試験の宿題)
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「永平寺で参禅したとき、これを公案こうあんにもらったんだ」と彼は云った、「答案はできずじまいだったがね、こんどはたっぷり暇があるから、なんとか片をつけてみるつもりだ」
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「梅花の巻」に限らず、どの公案こうあんにも同様な解結の手段がめぐらされている。
こういって、一つの公案こうあんを授けて行った。その公案——問題というのは
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗助そうすけ此間このあひだ公案こうあんたいして、自分じぶんだけ解答かいたふ準備じゆんびしてゐた。けれども、それははなは覺束おぼつかない薄手うすでのものにぎなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
氏が坐禅ざぜん公案こうあんが通らなくて師に強く言われて家へ帰って来た時の顔など、いまにも泣き出しそう小児こどもの様に悄気しょげかえったものです。以上不備ふびながら課せられた紙数をようやく埋めました。
かれらが面壁めんぺき公案こうあんのねらいであった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれ坐禪ざぜんをするときの一般いつぱん心得こゝろえや、老師らうしから公案こうあんことや、その公案こうあん一生懸命いつしやうけんめいかじいて、あさばんひるよるかじりつゞけにかじらなくては不可いけないことやら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あたま巓邊てつぺんからあし爪先つまさきまでこと/″\公案こうあん充實じゆうじつしたとき、俄然がぜんとして新天地しんてんち現前げんぜんするので御座ございます
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
老師ろうしから公案こうあんの出る事や、その公案に一生懸命かじりついて、朝も晩も昼も夜も噛りつづけに噛らなくてはいけない事やら、すべて今の宗助には心元なく見える助言じょごんを与えた末
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)