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八月
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はちぐわつ
四萬六千日は
八月なり。さしもの
暑さも、
此の
夜のころ、
觀音の
山より
涼しき
風そよ/\と
訪づるゝ、
可懷し。
俄かに
暑氣つよくなりし
八月の
中旬より
狂亂いたく
募りて
人をも
物をも
見分ちがたく、
泣く
聲は
晝夜に
絶えず、
眠るといふ
事ふつに
無ければ
落入たる
眼に
形相すさまじく
此世の
人とも
覺えずなりぬ
夏八月の
良夜に乘つきつて。
此の
時間前後の
汽車は、
六月、
七月だと
國府津でもう
明くなる。
八月の
聲を
聞くと
富士驛で、まだ
些と
待たないと、
東の
空がしらまない。
私は
前年、
身延へ
參つたので
知つて
居る。