先棒さきぼう)” の例文
ある家の前で、衝突の先棒さきぼうを振るものがある、両手を揚げて制するものがある、多勢の勢に駆られて見る間に御輿は傾いて行った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先棒さきぼううしろとのこえは、まさに一しょであった。駕籠かご地上ちじょうにおろされると同時どうじに、いけめんした右手みぎてたれは、さっとばかりにはねげられた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
すっかり、眼がさめました。どうか、その謀叛組むほんぐみ先棒さきぼうになったわしを縛って、御工事を、とどこおりなくおやり遂げくださいまし
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうではないにしても、あまり気味のよいお客様じゃアないから、先棒さきぼう後棒あとぼうは、ちらと眼で、用心の合図をかわしつつ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と思う途端に、駕籠の先棒さきぼうがだしぬけに頓狂な声で、「おい、この駕籠は滅法界めっぽうかいに重くなったぜ」と、呶鳴った。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
然るに京王電鉄は、一方先棒さきぼうの村内有力者某々等をして頗る猛烈に運動せしむると共に、一方田夫野人何事をか仕出来しでかさんとたかくくって高圧的こうあつてき手段しゅだんに出た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ソレに遠慮会釈も糸瓜へちまるものか、颯々さっさ打毀ぶちこわしてれ。ただ此処で困るのは、たれこれを打毀すか、ソレに当惑して居る。乃公等おれらは自分でその先棒さきぼうになろうとは思わぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何處どこはじまつた廓内なか鳥居前とりゐまへか、おまつりのときとはちがふぜ、不意ふいでさへくはけはしない、れが承知しようち先棒さきぼうらあ、しようさんきもたまをしつかりしてかゝりねへ、ときそひかゝるに、ゑゝはややつ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くして彼は先棒さきぼうとなり、𤢖は後棒あとぼうとなって、幾本の重い材木を無事に麓まで担ぎおろしたのである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
拾ったというと語弊ごへいがあるが、彼が箱根で山駕やまかごにのると先棒さきぼうをかついでいたのが、この勘太で若くて体もいいのに、ひょろついてばかりいる。そしては後棒あとぼう雲助くもすけ
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)