伊吹いぶき)” の例文
伊吹いぶき」は全速力で救助に向つてゐることは明らかだ。もうわづかな間である。豊国丸はそれまでどうしても浮かんでゐなければならない。
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
坂田郡の七条、鳥脇とりわきなどを経て、伊吹いぶきの山裾へつきあたります。すると、北国街道が横たわっておりますが、これにならわず道を
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そりゃ馬籠まごめはこんな峠の上ですから、隣の国まで見えます。どうかするとお天気のよい日には、遠い伊吹いぶき山まで見えることがありますよ——」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伊吹いぶきやまにはもう雪がつもっておりまして、みずうみのうえはひとしおさむうござりましたけれども、さえわたった朝のことでござりましたので
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
越前守忠相ただすけは、返辞がないのでちょっとふすまごしに耳をそばだてたが、用人の伊吹いぶき大作は居眠ってでもいるとみえて、しんとしてったようなしずけさだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中仙道は鵜沼うぬま駅を麓とした翠巒すいらんの層に続いて西へとつらなるのは多度たどの山脈である。鈴鹿すずかかすかに、伊吹いぶきは未だに吹きあげる風雲のいのしし色にそのいただきを吹き乱されている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それより山勢大いなる波濤の如く南に走つて伊吹いぶき山に到つて強く支へられてゐる。
湖光島影:琵琶湖めぐり (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
三瀬川みつせかは、船はてところかげくら伊吹いぶきの風に
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
おりおりに伊吹いぶきを見てや冬ごもり
伊吹山の句について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
木枕のあか伊吹いぶきにのこる雪
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
伊吹いぶきふもとに、藤吉郎の手勢は陣取っていた。まだ一将校にすぎない彼に、大兵を預けられるわけもない。微々たる兵数だ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うむ。伊吹いぶきをやった。例によって、文を投げこんでこいと言うてな」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
地中海に出動中の日本艦隊へ食糧や弾薬を運ぶ豊国丸ほうこくまるは、独逸どいつ商業破壊艦「ウルフ号」が、印度洋に向つたといふ警報を受けたので、帝国軍艦「伊吹いぶき」の保護を求めて、しきりに無電をかけながら
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
三瀬川みつせがは、船はてどころかげ暗き伊吹いぶきの風に
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
竹童はふたたびわしの背にかくれて、舞いあがるよと見るまに、いっきに琵琶湖びわこの空をこえて、伊吹いぶきの山のあなたへ——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊吹いぶきのすゑは木枯こがらし
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
その姿にはまだ、伊吹いぶきふもとたもとの鈴を鳴らしていた頃の、世間に傷つかない処女おとめらしさが残っていたからであろう。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊吹いぶきのすゑは木枯こがらし
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
伊吹いぶきでは、道誉どうよが、加盟のあかしにと、自己の兵二百を加勢にさし出していたし、そこの難関をこえてからの高氏たかうじは、まったく、何の屈託もなさそうに見えた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに立てば、余吾よご琵琶びわはいうに及ばず、湖に沿うて南へ一すじの北国街道も、伊吹いぶきの裾まで一望される。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たちまち湖面の波を白くかすって、伊吹いぶきの上をめぐり、彦根ひこねの岸から打出うちではまへともどってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美濃みのの養老と伊吹いぶきの山のくびれには、万葉や古今こきんに、古くからわび歌われた幾つかの古駅があり、関ヶ原から湖南へ往来する旅人たちは、この峡谷の街道をあゆむごとに
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊吹いぶきのすそや不破ふわの山かげには、まだ雪も深かったが、滋賀しがのさざなみにえる陽を横顔にうけて、湖畔をのたりのたりってくると、よいほどに汗ばんで、行列の兵卒たちも
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
養老の峰々は、江州との国境をなし、伊吹いぶきの山には、たえず雲が去来していた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊吹いぶき、北国路もあの通り。途中さだめし大雪に悩まれたろうに」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その伊吹いぶきふもとが思い出されるような草原へ出ると
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)