二月きさらぎ)” の例文
二月きさらぎ初旬はじめふと引きこみし風邪かぜの、ひとたびはおこたりしを、ある夜しゅうとめの胴着を仕上ぐるとて急ぐままにふかししより再びひき返して
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
さし上げている白いひじに、あかりの影と黒髪がさやさやとうごいて、二月きさらぎの晩のゆるい風には、どこか梅のかおりがしていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
豊雄がとむらひ来るをよろこび、かつ二一四月ごろの事どもをいとほしがりて、いついつまでもここに住めとて、二一五念頃にいたはりけり。年かはりて二月きさらぎになりぬ。
されど二月きさらぎそらはさすがにあをみわたりて、朗々のどかなるまどのもとに書読ふみよむをりしもはるか輴哥そりうたきこゆるはいかにも春めきてうれし。是は我のみにあらず、雪国の人の人情にんじやうぞかし。
二月きさらぎである。野は寒い。枯草がサラサラとそよいでいる。山々が固黒く縮こまっている。花などどこにも咲いていない。旅人の姿も見あたらない。ひっそり閑とただ寂しい。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日露戰爭にちろせんさうのすぐ以前いぜんとはひながら、一圓いちゑんづゝにかぞへても、紙幣さつ人數にんず五十枚ごじふまいで、きんしやちほこ拮抗きつかうする、勇氣ゆうきのほどはすさまじい。とき二月きさらぎなりけるが、あまつさへ出陣しゆつぢんさいして、陣羽織ぢんばおりも、よろひもない。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
西へしもこもれば無しと歎くかなその二月きさらぎもちの夜の月
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
二月きさらぎさむのさびれに
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「二人の夢が、こう結ばれた。その二月きさらぎの夜からの幸福さ。……おれは今、毎日、いっぱいなんだよ、その幸福で」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されど二月きさらぎそらはさすがにあをみわたりて、朗々のどかなるまどのもとに書読ふみよむをりしもはるか輴哥そりうたきこゆるはいかにも春めきてうれし。是は我のみにあらず、雪国の人の人情にんじやうぞかし。
これは——翌年の二月きさらぎ、末の七日の朝の大雪であった。——
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とたんに、二月きさらぎごろの寒風と、かなしい日の、空き腹や、いまいましいぜになどが、頭のうちに、ちらついた。
伝右衛門は、手綱をのばして、に、二月きさらぎの星を仰いだ。そしてまた、独り語にいった。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二月きさらぎの星はいいようもなく肌ざむい。わけて敗軍の身、流亡の空だ。しかた、明日の未来、尊氏は居眠ってでもいるように、船むしろに坐っていたが、心は複雑なのであろう。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、二月きさらぎまでには、嫁御寮を、ここに迎えよう。何かと、その心得をしておけやい」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二月きさらぎの日蔭のどこかにはまだ消え残っていそうな雪にふと出会った思いである。睫毛まつげが濃い。えりくびの細さや総じてのなよかな薄い体つきは、袂の忍びこうに交じって涙の香もするようだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安政の四年、泥舟が明けて二十三歳となった年の二月きさらぎの一夜だった。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)