事業しごと)” の例文
「実は、今、あの話を三吉さんにしましたところですよ」とお倉は力を入れて、「何卒どうぞまあ事業しごとの方も好い具合にまいりますと……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すべてカアネエギイのやうに自分の腕一本で事業しごとに成功した男は、得て自分の腕を自慢する余り、自分の鑑定めがねをも信じたがるものなのだ。
返り血を浴びたまま顔色蒼白となって四辺あたり睥睨へいげいしつつ「俺の事業しごとを邪魔するかッ」と叫んだ剣幕に呑まれて一人も入場し得なくなった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「……だめかい? だめかい? ……お珠さん。どうしても、お父っさんにこの事業しごとを思い止まらせる事はできないかい」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
外にはもっと華々しい、活気に充ちた生活があります。そうして男というものは、何か事業しごとをしないことには、男としての真の楽しみを、感じないものでございます。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先輩の対手あひてにならないのは仕方が無いが後継者あとつぎの若い者までが株屋や御用商人の真似をしたがるから困る。その証拠には貴下あなた、斯ういふ学校出身者で細くとも自分で事業しごとを初めた人がありますか。
青年実業家 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
こういうことは、私たちの親としてのうれしい気持ちを暗くする。せっかく楽しいものに思った事業しごとを、苦しいものに思わせる。不安に思いつつする仕事は、成功するものでないことはたしかである。
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
老女おばさん」と篠田は渡辺の老女を顧みつ「花さんは大切だいじな体です、将来こののちに大きな事業しごとをなさらねばならぬ役目をんで居られますので、又た花さんの性質にく適当した役目であると思ひますので、 ...
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
小諸で新しい事業しごととか相談とか言えば、誰は差置てもず荒井様という声が懸る。小諸に旦那様ほどの役者はないと言いました位です。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
つまり母親といふ母親は、始終子供の歯に気をつける事だけで、男の及ばない愛国的の事業しごとを仕遂げる事が出来るといふのだ。
「じゃあ、わしの事業しごとに、力をかす気で来てくれたのか」
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾儕われ/\事業しごと是丈これだけに揚つて来たのも、一つは君の御骨折からだ。斯うして君が居て下さるんで、奈何どんなにか我輩も心強いか知れない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なすつて居らつしやりながら、まだ何か知ら仕遂げてみたいと思つてらつしやる事業しごとがおありなんですか。
彼の心は事業しごとの方へ向いた。その自分の気質に適した努力の中に、何物をもってもみたすことの出来ない心の空虚をみたそうとしていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もし井上侯を猛獣にたとへるなら、H氏は差し詰め手練しゆれんな猛獣使ひといふ事になる。猛獣使ひが余り名誉な職業しごとで無いと同じやうに、井上侯を手管てくだに取るのも、大して立派な事業しごとでは無かつた。
畢竟つまり一緒に事業しごとが出来ないといふは、時代が違ふからでせうか——新しい時代の人と、吾儕われ/\とは、其様そんな思想かんがへが合はないものなんでせうか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
教師はそれを持つて、何かまた事業しごと目論もくろんだらしかつたが、それも結果が悪かつたかして、また馬左也氏の応接間へひよつくり出て来た。そして閾際しきゐぎはに立つて鄭寧ていねい胡麻白頭ごまじろあたまを下げてお辞儀をした。
「そう言って頂けば私も難有ありがたいんですけれど……でも、何んとか前途さきの明りが見えないことには……何処まで行けばこの事業しごとが物に成るものやら……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実は、私も、彼様いふ目に逢はせられたもんですから、其が深因もとで今度の事業しごとを思立つたやうな訳なんです。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そう女というものは男の事業しごとに冷淡なものかな。今までは、もうすこし同情おもいやりが有るものかと思っていた」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一頃は本所辺に小さな家を借りて、細君の豊世と一緒に仮の世帯しょたいを持ったが、間もなくそこも畳んでしまい、細君は郷里くにへ帰し、それから単独ひとりに成って事業しごと手蔓てづるを探した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小諸が盛んになるも、衰えるも、私の遣方やりかた一つにあるのだ。その私が事業しごとの記念だと言って、ここへこうして並べて、お前に見て喜んで貰おうとしているのに……アハハハハハハ
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私はネ」と正太は叔父の方を見て、「事業しごとと成ると、どんなにでも働けますが——使えば使うだけ、ますます頭脳あたまえて来るんです——唯、こういう人情のことには、実際閉口だ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もとより資本あっての商法では無い。磐城炭いわきたんの売込を計劃したことも有ったし、南清なんしん地方へ出掛けようとして、会話の稽古までしてみたことも有った。未だ彼はこれという事業しごとに取付かなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岡見が伝馬町てんまちょうの自宅の方から雑誌社の隣家となりに来て寝泊りするほど熱心に今では麹町の学校の事業しごとを助けていること、その岡見が別に小さな雑誌をも出していること、岡見に好い弟があり妹があること
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから事業しごとの方に取掛る、こう話した。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)