中途ちゅうと)” の例文
とたんに、あッ——とれた咲耶子の声が、糸を切ったように、中途ちゅうとからポツンときれて、それっきり、あとはなんの音もしなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汽船の名はグラフトン号で、豪州ごうしゅう航行の中途ちゅうとであった。船長ロングは、さっそく一同を本船にむかえいれ、その遭難そうなんのてんまつをきいた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
した子供こどもたちは、うらやましがって、うえあおいでくちけています。中途ちゅうとまで、のぼったものも、いつかおもいあきらめて、りてしまいました。
高い木と子供の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
与平はコップを持っていた手を中途ちゅうとでとめて、じっと宙を見ていた。大きい耳がたれさがって老いを示していたが、まだ、狭い額には若々しいつやがあった。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ここまで跡をつけて来て路地のかげに身をひそめていた清岡は、万事があまりに都合好く進捗しんちょくして行くので、このまま中途ちゅうとから帰るわけには行かなくなった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
飯を済ましてからにしようと思っていたが、しゃくさわったから、中途ちゅうとで五円さつを一まい出して、あとでこれを帳場へ持って行けと云ったら、下女は変な顔をしていた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
するうち自分じぶんのからだのおもみで、だんだんなわよわってきて、中途ちゅうとからぷつりとれました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
あり合はせた草履ぞうり穿いて出る時、亭主が声を掛けて笑つた。其の炉辺ろべりには、先刻さっき按摩あんま大入道おおにゅうどうが、やがて自在の中途ちゅうとを頭で、神妙らしく正整しゃんと坐つて。……胡坐あぐらいて駕籠舁かごかきも二人居た。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこで、中途ちゅうとまでいった時分じぶんには、五ひきともつかれてしまって、しばらく、えだうえやすんで、物珍ものめずらしげに、あたりの景色けしきなどをながめていました。
三匹のあり (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが潮にまかせて遡行そこうするいかだのことであるから、速力はいたってにぶかった。その日は中途ちゅうとで一ぱくし、一同は富士男の桃太郎物語などをきいて愉快ゆかいにねむりについた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
道をきくべき酒屋も煙草屋たばこやもないので、迷い迷ってつい守阪かみざか中途ちゅうとに出てしまった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と竹童は、そのうでをねじあげて、石段の中途ちゅうとへ、したおした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だ! だ!」エーは、くちのうちでささやきながら、いそいで、きたみちをもどると、中途ちゅうとから、人家じんかえるむらをさして、したのであります。
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
中途ちゅうとでちょっと小手をかざし、四方をながめまわして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)