万里ばんり)” の例文
旧字:萬里
かん武帝ぶていが常に匈奴に苦しめられ、始皇しこうが六国を亡ぼしても北部の蕃族、即ち匈奴を防ぐがために万里ばんり長城ちょうじょうを築くという有様であった。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
万里ばんりの長城の比ではない。近代科学の精萃とマジノラインの何千万倍ぐらいのコンクリートを使用しなければならないだろう。
武者ぶるい論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
老杜ろうと登高とうこう七律しちりつにも万里悲秋常ナル百年多病独登万里ばんり悲秋ひしゅう 常に客とる、百年の多病 独りだいに登る〕の句あり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
即ち天然に万里ばんりの長城を形造って充分に地の利を得たるところの国に指を染めるというは、つまりそのヒマラヤの南のふもとに在る世界の富源地
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
つき四月とたつに従って、島全体を取囲んで、丁度万里ばんり長城ちょうじょうの様な異様な土塀が出来、内部には、池あり、河あり、丘あり、谷あり、そして
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『マア聞き給え。その青い壁が何処どこまで続いているのか解らない。万里ばんり長城ちょうじょう二重ふたえにして、青く塗った様なもんだね』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
万寿山へも行けば、万里ばんり長城ちやうじやうへも行つた。梅蘭芳メイランフワンの劇をも見れば琉璃廠るりしやうの狭斜へも行つた。Bは北京に三泊つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
万里ばんり波濤はとうをのりこえて恐竜探検にここまでやってきた一行のことであるから、一刻いっこくも早く恐竜にはっきり面会したくてたまらない人々ばかりだった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
満州を占領して満州国を作った日本軍は、山海関さんかいかんに手をつけたと思ったら、万里ばんりの長城を越えて華北かほくに侵入した。今度は支那にはいって行くつもりか。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
ちょうど今午睡ごすいから覚めたダアワは僕を散歩につれ出そうとしている。では万里ばんり海彼かいひにいる君の幸福を祈ると共に、一まずこの手紙も終ることにしよう。
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
満足にポストの中へはいっており、宛名も正確に書いてあるとしても、それが雲煙うんえん万里ばんりを隔てた目的地へ間違いなく行きつく可能性は甚だ乏しいような気がする。
雑文一束 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
万里ばんり異域いいき同胞どうほうの白骨を見ようとは、富士男にとってあまりに奇異きいであり感慨かんがい深きことがらであった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
私の好きな万里ばんりの歌である。サンプロンは、世界最長のトンネルだと聞いていたけれど、一人のこうした当のない旅でのトンネルは、なぜかしんみりとした気持ちになる。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
征せんと欲していまだ功ならず。図南となん鵬翼ほうよくいずれのときにか奮わん。久しく待つ扶揺ふよう万里ばんりの風
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
すぐ目前にはてしもない平野が打ち続き、悠久な大黄河だいこうがの流れがその間を貫いています。奥に至れば峰また峰であって、あの万里ばんりの長城がその頂きを縫うが如くに連らなっています。
北支の民芸(放送講演) (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
人唄えばとて自ら歌えばとてついに安き眠りを結び得ざるは貴嬢きみのごとき二郎のごときまたわれのごとき年ごろの者なるべし、ただ二郎このたび万里ばんりの波上、限りなき自然の調べに触れて
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「何が平気なもんか、万里ばんり異境にある旅情のさびしさは君にはわからぬ」
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
保吉やすきちの海を知ったのは五歳か六歳の頃である。もっとも海とは云うものの、万里ばんりの大洋を知ったのではない。ただ大森おおもりの海岸に狭苦せまくるしい東京湾とうきょうわんを知ったのである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少しへだたった所に、誰かの大きなおやしきがあって、万里ばんり長城ちょうじょうみたいにいかめしい土塀どべいや、母屋おもや大鳥おおとりの羽根をひろげた様に見える立派な屋根や、その横手にある白い大きな土蔵なんかが、日にてらされて
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もっとも「順天時報」の記者は当日の午後八時前後、黄塵に煙った月明りの中に帽子ぼうしをかぶらぬ男が一人、万里ばんり長城ちょうじょうを見るのに名高い八達嶺下はったつれいかの鉄道線路を走って行ったことを報じている。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)