万燈まんどう)” の例文
新字:万灯
島原一帯の茶屋の灯火あかりは日の暮れぬうちから万燈まんどうの如く、日本中から大地を埋めむばかりに押寄せた見物衆は、道中筋の両側に身動き一つせず。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
万燈まんどうを持った子供の列の次に七夕竹たなばただけのようなものを押し立てた女児の群がつづいて、その後からまた肩衣かたぎぬを着た大人が続くという行列もあった。
高原 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
だつてぼくよわいもの。よわくてもいよ。万燈まんどう振廻ふりまわせないよ。振廻ふりまわさなくてもいよ。ぼく這入はいるとけるがいかへ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
千戸に万燈まんどうをかけつらねていた。辻には大篝おおかがりを焚き、家ごとの軒下には、老人としよりも子も若い娘も皆出て、凱旋将士を見ると
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その人だかりの真中に大きな万燈まんどうがあって、その下で口上言いが拍子木を叩きながらしきりに口上を言っています。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
両方がずっと田圃で、田のあぜを伝って、畷とも道ともつかない小逕こみちを無数の人影がうようよしている。田圃の中には燈火あかり万燈まんどうのように明るくともっている。
ここの停車場ステエションを、月の劇場の木戸口ぐらいな心得違いをしていた私たちは、のぼり万燈まんどうには及ばずとも、屋号をかいた弓張提灯ゆみはりぢょうちんで、へい、茗荷屋みょうがやでございます
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕掛花火も終った頃、三吉は正太と連立って、もう一遍橋のたもとまで出て見た。提灯ちょうちん万燈まんどうけて帰って行く舟を見ると、中には兜町方面の店印をも数えることが出来る。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日が暮れても街燈は完全につかず、夕闇ゆふやみの中をジープがイタチのやうにすばしこくかすめて過ぎる外は人影もまれだつた。たまにお葬式の万燈まんどうのやうに電車がのろのろ通る姿のわびしさ——。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
その昔、芝居茶屋の混雑、おさらいの座敷の緋毛氈ひもうせん、祭礼の万燈まんどう花笠はながさったその眼は永久に光を失ったばかりに、かえって浅間しい電車や電線や薄ッぺらな西洋づくりを打仰ぐ不幸を知らない。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
日頃、油を節約して、暗いに馴れているゆえ、辻々に万燈まんどうを建てよ。踊りの群れに行き合うたら、そち達から馬を避け、踊り楽しむ領民どもに、怪我けがをさすな
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れのる事は乱暴だと人がいふ、乱暴かも知れないが口惜くやしい事は口惜しいや、なあ聞いとくれ信さん、去年も己れが処の末弟すゑの奴と正太郎組の短小野郎ちびやらう万燈まんどうのたたき合ひから始まつて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
白昼ひるまを欺くばかりなりし公園内の万燈まんどうは全く消えて、雨催あまもよいそらに月はあれども、四面滃※おうぼつとしてけぶりくがごとく、淡墨うすずみを流せる森のかなたに、たちまち跫音あしおとの響きて、がやがやとののしる声せるは
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、一歩大宮に入ると、のきごとに万燈まんどうをともし、幕をもって壁をかこい、花をけ、金屏風きんびょうぶをすえ、人はみな晴衣はれぎを着て、町中、大祭のような賑いであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何も女郎めらうの一ぴき位相手にして三五郎をなぐりたい事も無かつたけれど、万燈まんどうを振込んで見りやあただも帰れない、ほんの附景気につまらない事をしてのけた、そりやあ己れが何処までも悪るいさ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
清洲の城から万燈まんどうの灯の海を眺めても分るのであった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)