一太刀ひとたち)” の例文
平四郎さすがに手だれなりければ、思うままに伝三を疲らせつつ、打ちかくる鍬を引きはずすよと見るに、伝三の肩さきへ一太刀ひとたち浴びせ、……
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
筋違すぢかひを入つて此處まで來ると、いきなり後ろから、一太刀ひとたちあびせられたやうな氣がしましたか、振り向いて見る氣もしません
せめて、母の目なりとあいていたら、どんなにでもして左近将監にうらみの一太刀ひとたちはむくいてやれるのだが、なにを
亡霊怪猫屋敷 (新字新仮名) / 橘外男(著)
斬り込んで行った帰雁、斜になって流したはずの銀二郎の構えが遅かったか、ないしは足がくずれたか、右のひじから脇腹へかけて一太刀ひとたち受けた銀二郎。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一太刀ひとたちなりとうらもうものと、猛者もさのあいだに入りまじっていく姿は、勇ましくもあり、また、涙ぐましい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしの手足にまだ力が残っていた間は、いかにもして一度みやこに帰ってかたき一太刀ひとたちむくいる望みがあった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
『下へおりて行く時、盾をよく見て、最初の一太刀ひとたちをしくじらないように気をつけなさい。』
この女房は信長の前へ出ると、懐中した錦の袋から茶入を出して信長に見せると、信長は何に激したか大いに怒り、刀を抜いてこの女房を一太刀ひとたちに斬って捨ててしまいました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見す/\蟠龍軒似寄によりの者が、新潟の沖なる親船に忍んでると聞きながら、武士と生れて一太刀ひとたちうらみもせず、此の儘死ぬるも残念至極、また女房とても生死の程も分らぬうち
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
迅雷じんらいおおうにいとまあらず、女は突然として一太刀ひとたち浴びせかけた。余は全く不意撃ふいうちった。無論そんな事を聞く気はなし、女も、よもや、ここまでさらけ出そうとは考えていなかった。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
みろ! これがほんとうに下司げすの知恵というやつじゃ。こんな縫いぐるみなぞをかぶって、笑止なことに孝子のやいばを避けようとしたゆえ、一太刀ひとたちも合わさずに討たれるような恥を
それがしの面目はもとより武蔵殿も名誉、共に思うさま百右衛門をののしり、信義の一太刀ひとたち覚えたか、とまっこうみじんに天誅てんちゅうを加え、この胸のうらみをからりと晴らす事が出来るものを
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
今一人が眞向まつかうよりざツくり切たる一太刀ひとたちに二言と云はず死してけり二人は血刀押拭おしぬぐひ先久しりの山吹色やまぶきいろと懷中へ手を入れてヤアないはコリヤどうぢやと二人は不審ふしんはれやらず猶も懷中を掻探かきさぐ財布さいふ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「そちは一太刀ひとたち打った時に、数馬と申すことを知ったのじゃな。ではなぜ打ち果すのをひかえなかったのじゃ?」
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
穴山梅雪あなやまばいせつ眉間みけん一太刀ひとたち割られているうえに、ここまでのあいだに、いくどとなく投げられたり鞍壺くらつぼにひッつるされたりしてきたので、この世の者とも見えぬ顔色になっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俊寛 ただ一太刀ひとたち! わしのにくみを清盛きよもりの肉にただ一太刀きざみつけるために!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その曲者も中々こたえた奴で、わっち一太刀ひとたちあびせやがった、やられたなと思ったが、幸いに仕事の帰りで、左官道具をどっさり麻布さいみの袋に入れて背負しょっていたので、塩梅あんばいに切られなかった
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかも、主人のまくら刀はそこに置かれたままで、一太刀ひとたちも抜き合わしたらしいけはいがなかったものでしたから、右門は聞くのが少しきのどくでしたが、正直に思ったとおりを尋ねました。
ざっくり一太刀ひとたち、帰雁が黒頭巾を割り下げた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
致命傷ちめいしょうにはなるまいが、怨敵おんてき梅雪ばいせつへは、たしかに一太刀ひとたち手ごたえをくれてあるから、このうえはどうかして、一ぽうの血路をひらき、伊那丸君いなまるぎみをすくいだそうと民部は心にあせった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、また一太刀ひとたち、今度は、右の肩先から胸へかけて、袈裟けさがけに浴びせかける。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「寄りつくものは一太刀ひとたちぐぞ」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)