-
トップ
>
-
たまがは
さるほどに
今歳も
空しく
春くれて
衣ほすてふ
白妙の
色に
咲垣根の
卯の
花、こゝにも一
ツの
玉川がと、
遣水の
流れ
細き
所に
影をうつして、
風なくても
凉しき
夏の
夕暮、いと
子湯あがりの
散歩に
瀧のその
或ものは、
雲にすぼめた
瑪瑙の
大蛇目の
傘に、
激流を
絞つて
落ちた。また
或ものは、
玉川の
布を
繋いで、
中空に
細く
掛かつた。その
或ものは、
黒檀の
火の
見櫓に、
星の
泡を
漲らせた。
こんな
事からお
媼さんも、
去年……
其の
當座、かりに
玉川として
置く……
其家の
出入りに
氣を
着けたやうだつたが、
主人か、
旦那か
知らず、
通つて
來るのが、
謹深く
温ましやかな
人物らしくて
「
今度裏の
二階家へ
越して
來た
人は、
玉川さんと
云ふのだらう。」