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すうねんらい
以前の
卯平であればさういふ
味が
普通で
且佳味く
感ずる
筈なのであるが、
數年來佳味い
醤油を
惜氣もなく
使用して
來た
口には
恐ろしい
不味さを
感ぜずには
居られなかつた。
僅に
醤油の
味のみが
數年來の
彼の
舌に
好味たるを
失はなかつたが、
挽割麥の
勝つた
粗剛い
飯は
齒齦が
到底それを
咀嚼し
能はぬのでこそつぱい
儘に
嚥み
下した。おつぎが
膳を
引かうとすると
卯平は一
日歩いた
草臥が
酷く
出たやうでもあるし、
又自分の
村落へ
歸つたので
心が
悠長とした
樣でもあるし、それに
此の
數年來は
火の
番の
癖で
朝はゆつくりとして
居るのが
例であつたので
然し此の
数年来賭博風は吹き過ぎて、遊人と云う者も東京に往ったり、
比較的堅気になったりして、今は村民一同
真面目に稼いで居る。