黒白こくびゃく)” の例文
バクチの方では干将莫耶かんしょうばくやつるぎでござんしてな、この賽粒の表に運否天賦うんぷてんぷという神様が乗移り、その運否天賦の呼吸で黒白こくびゃく端的たんてきが現われる
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
黒白こくびゃくは分りきっていますが、何分にも、土地の役人のうちには、顔役などと、かなり親しいものもいないではありませんから」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒白こくびゃくの石粒と坊主貝 白い石粒と黒い石粒とそれから細い竹屑たけくずのような物を持っておりまして、まず白い石粒が十になりますと黒い石粒一つに繰り上げ
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「どうして遠近えんきん無差別むさべつ黒白こくびゃく平等びょうどうの水彩画の比じゃない。感服の至りだよ」「そうほめてくれると僕も乗り気になる」と主人はあくまでも疳違かんちがいをしている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御先祖様が無心徴発苦しからずと仰せのこしておじゃるのに、御身が貸すこと罷りならぬとあらば、江戸お上にお訴え申して、この黒白こくびゃくつけねばならぬ。さすれば——
文治は人に頼まれる時は白刃しらはの中へも飛び込んで双方をなだめ、黒白こくびゃくを付けて穏便おんびんはからいを致しまする勇気のある者ですが、母に心配をさせぬため喧嘩のけの字も申しませず
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そのうちに黒白こくびゃくの石が碁盤の上にいっぱいになった。三左衛門はじぶんの負けたことを知った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
アリナ夫人の実父とコンラド従男爵とは法廷に於てアリナの貞操に関し黒白こくびゃくを争うこととなりしが、従男爵は、その黒髪青年の肖像画と同じ人物の存在を固く主張せしに対し
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さて五欲について思い起こすことは、『譬喩経ひゆぎょう』のなかにある「黒白こくびゃく」の譬喩たとえです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
まして未だかつて知らぬ敵地へ踏込む戦、ことに腹の中の黒白こくびゃく不明な政宗を後へ置いて、三里五里の間も知らぬ如き不詮議の事で真黒闇まっくらやみの中へ盲目探りで進んで行かれるものでは無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕として、日本画をかくとしたら白描か、黒白こくびゃくを主としたものに少し色をつけるものをやってみたい。しかし、どういう風な描き方でなくてはいけないという事は決していえるものではない。
予も何となく後顧うしろぐらき心地して、人もや見んとあやぶみつつ今一息と踏張ふんばる機会に、提灯の火を揺消ゆりけしたり。黒白こくびゃくも分かぬ闇夜となりぬ。予は茫然として自失したりき。時に遠く一点の火光あかりを認めつ。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
義俊の父家親いえちかが、楯岡甲斐かいの家で毒を進められ、余吾之介の父松根備前が、幕府に訴えて黒白こくびゃくをつけようとしましたが、証拠がないために敗れて流され、幕府はそれを口実に、山形の所領を収めて
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
いかに人はかれこれいうともおのれさえ道を蹈むことをおこたらずば、何の策をろうせずとも、いつの間にか黒白こくびゃく判然するものである。要は「本来ほんらい清浄せいじょう」を守るにある。さすれば人為人工を用うるに及ばぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
鮮明なる二種の色調と黒白こくびゃくとをあわせ用ゐて各部を異らしめたる所、共に強烈なる油絵の顔料がんりょうといへどもよくこれに及ぶ事あたはざるべし。余はホイッスラアのもっとも有名なる銅板画よりもむしろ本図を好む。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「わたしと貴方あなたと、どちらかがいなくなれば、スグ解決のつくことなんだわ。どうせわたしだって、もう、生きてようとも思わないけれど、死ぬ前に黒白こくびゃくだけは、つけたいわ。あの方の真意も知らずに、死ぬのは死んでも死に切れないわ」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
無論兄さんを相手に黒白こくびゃくを争うつもりでした。あなたは御存じだかどうだか知りませんが、私は学校にいた時分、これでよく兄さんとを打ったものです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「私とても、案じられて堪りません。老先生の申し分が届いて、ご子息の黒白こくびゃくが立てばよいがと、祈っておりましたが、はっきりと、談判のご様子を承らぬうちは、胸さわぎがしずまりませぬ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひっくり返ってもつかえはない。物には両面がある、両端りょうたんがある。両端をたたいて黒白こくびゃくの変化を同一物の上に起こすところが人間の融通のきくところである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世人黒白こくびゃくして分れ
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
纏めるというのは黒白こくびゃくの決しかねる事柄ことがらについて云うべき言葉だ。この場合のような、誰が見たって、不都合としか思われない事件に会議をするのは暇潰ひまつぶしだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒白こくびゃく
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広くもない四角な板を狭苦しく四角に仕切って、目がくらむほどごたごたと黒白こくびゃくの石をならべる。そうして勝ったとか、負けたとか、死んだとか、生きたとか、あぶら汗を流して騒いでいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)