麻疹はしか)” の例文
麻疹はしか後、とかくお房は元気が無かった。亡くなった私の母親を思出させるようなこの娘は、髪の毛の濃く多いところまでも似て来た。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
危ねえと言ったって、こうなれば、疱瘡ほうそう麻疹はしかも済んだようなものでございますから、生命いのちにかかわるような真似は致しません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女はまる二日のあいだ眠っていない、虎之助は七日ほどまえから風邪ぎみであったが、一昨日になって、医者が麻疹はしかであると診断した。
私は茶店の娘相手に晩酌の盃をめていたが、今日の妻からの手紙でひどく気が滅入めいっていた。二女は麻疹はしかも出たらしかった。
父の出郷 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
「あいつがこの島へ来たのは辛かった。私もさんざんやられました。これァ麻疹はしかのようなもんだから、早くすまして楽になったほうがいいですよ」
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「どうしたえ。ひどく顔の色が悪いじゃあねえか。麻疹はしかかえ。はは、そりゃあ冗談だ。なにしろまあここへ掛けねえ」
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私はかなり重い麻疹はしかにかかつて幾日か学校を休んだのちやつとのことで出席したら意外にも受持ちの先生がかはつてゐた。中沢先生は召集されたのだといふ。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
その年ひどく流行した麻疹はしかに感染して、一応はどうやらなおったものの、病毒が廻って全身に吹出物ふきでものを生じた。
「寝込むほどわずらったのは、六つの時麻疹はしかをやってから、ツイぞ覚えのねえ事さ。鬼のかくらんだよ」
麻疹はしかの流行に際し、入り口に「鎮西八郎為朝宿ちんぜいはちろうためともやど」と題して、わが家には病気入ることできぬものと信じおるがごとき、隣家の失火に際し、主人自ら鎮火の祈祷きとうを行い
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
曾て姉妹きやうだいとも同時に流行の麻疹はしかに罹つたことがある。最初は非常の熱で、食事も何も進まなかつた。その當時の或る夜自分は十時頃でもあつたか外出先から歸つて來た。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
麻疹はしかにかかって定子は毎日毎日ママの名を呼び続けている、その声が葉子の耳に聞こえないのが不思議だ。こんな事が消息のたびごとにたどたどしく書き連ねてあった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
だから、佃組と山岸組とを問はず、船中にゐる侍と云ふ侍の体は、ことごとく虱に食はれたあとで、まるで麻疹はしかにでもかかつたやうに、胸と云はず腹と云はず、一面に赤く腫れ上がつてゐた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貰乳もらいちちをして育てていると、やっと四月よつきばかりになった時、江戸中に流行はやった麻疹はしかになって、お医者が見切ってしまったのを、わたしは商売も何も投遣なげやりにして介抱して、やっと命を取り留めた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
麻疹はしかジフテリア水痘と一々枚挙にいとまがない。中学校に入ってから何方も丈夫になって悉皆すっかり忘れていたけれど、又チブスを拝領しては堪らない。僕はそう気がつくと直ぐに国分さんへ駈けつけた。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
当時は痘瘡とうそうとか麻疹はしかとか云う疫癘えきれい流行はやって死人が多く出たりすると、一つには伝染を恐れるのと、一つには処置に困るのとで、何処と云うことなく、空地があれば病人の屍骸を運んで行って
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あいにく、この春以来、末の息女が、風邪とも、麻疹はしかともつかぬ御病気。その看護みとりに、お疲れの上に、良人の大難と聞かれて、先頃から夜ごと、水垢離みずごりとって、神信心など、なされたものらしい。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あなたのこんなのは謂わば麻疹はしかの軽いのみたいなものでしてね、これですんだと油断すると、又ぶり返して却ってえらい目に会うことがあるものです。紐育の風は有名ですからな、どうもこれからは……」
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ゆうべ医者から麻疹はしかだといわれたこと、当分は部屋を閉めきり、屏風びょうぶを廻して、風に当てないようにしなければならないこと。
攘夷の軍用金を口実にして、物持ちの町家をあらし廻るのは此の頃の流行で、麻疹はしかと浪士は江戸の禁物きんもつであった。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
余が巡回中直接に見聞せしうち、埼玉県北埼玉郡新郷村、漆原亮太郎氏の門は数百年前の建築なるが、麻疹はしか流行の際には、夜中ひそかに来たってその柱を削り去るとのことだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
現象的にいうと、ちょうど、麻疹はしかのようなものよ。どっちみち、いつまでも引きずりまわしているようなものじゃないわね。……お好きなら、あなたは、いつまでもそうしていらっしゃい。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
実際、郁太郎は今までよく育ったもので、肉附きはよし、麻疹はしかも軽くて済み、誰が見ても丈夫そうで、他人さえ可愛いらしかったくらいですから、お浜にとって、どうして可愛がられずにいられよう。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小太郎は麻疹はしかを軽く済ませたあと、よく肉付いて丈夫に育だち、眉つき口もとなど、びっくりするほど半之助に似はじめた。
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
次男は麻疹はしかで命をられた。三男は子供のときから手癖が悪いので、おまきの方から追い出してしまった。
半七捕物帳:12 猫騒動 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
幼ないころから、顔もからだもまるまるとしていたが、疱瘡ほうそう麻疹はしかも軽く済んだそうだし、風邪で寝たこともないという。
その翌年、即ち文久二年の夏から秋にかけて、麻疹はしかがたいへんに流行しました。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふさの肥立ひだちは好調で、乳も余るほど出たし、その翌年の三月、ゆかは麻疹はしかにかかったが、それも無事に済んだ。
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「親分。申し訳がありません。実は小せえ餓鬼が麻疹はしかをやったもんですから」
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
麻疹はしかは済んだのだろう。はい。では余病でも出たのか。よくわかりませんが、腸をこわしたようで、下痢が止まらないということですと丹三郎は云った。
もちろん命が二つあっても足りない位ですが、女牢に入れられて吟味中、流行の麻疹はしかに取りつかれて三日ばかりで死にました。お角にとっては、麻疹の流行が勿怪もっけの幸いであったかも知れません。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
父に抱かれて寝たり、子守唄をうたってもらった覚えがあるし、麻疹はしかのときや疱瘡ほうそうのときはもちろん、風邪をひいたぐらいのときでも、父は側をはなれずに看病してくれた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「なにが流行る、麻疹はしかじゃあるめえ」
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「はい」とちぐさが喉声のどごえで低く答えた、「このあいだ無事に麻疹はしかを済ませました」
「おっかさんもそれは聞いた覚えがあるわ、ほんと、嫁にゆきたいと思うか思わないかはべつとして、としごろになるとこの病気にかかる者が珍しくはないんだって、つまり麻疹はしかみたようなもんだっていうのよ」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十二月にはいると間もなく幸太郎が麻疹はしかにかかった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)