願文がんもん)” の例文
上訴じょうそ上訴。——われらのうち数名のものが、まず政庁に赴いて、念仏停止ちょうじ願文がんもんをさし出し、朝廷へ訴え奉るが何よりの策じゃ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御用人様、——若殿お命を速やかに縮め給え、穴賢あなかしこ——と紅筆で願文がんもんを書くような人間は、御屋敷に心当りはありませんか」
この箱の中の願文がんもんはお居間の置きだななどへしまってお置きになりまして、何をなさることも可能な時がまいりましたら
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
久米島くめじま仲里間切なかざとまぎり二百数十年前の記録に、稲の祭に伴なう村々の願文がんもんを載せてあるが、その中には一つならず、鼠を小舟に載せてニルヤの磯に送り返すついでをもって
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ついで日本国家の威力が旭日きょくじつの輝くごとく万国に光被せんことを祝願するので実にめでたい願文がんもんである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
熱田の町口には加藤図書助順盛ずしょのすけよりもりが迎えに出て来て居て、出陣式法の菓子をそなえた。信長は喜んで宮に参り願文がんもんを奉じ神酒を飲んだ。願文は武井入道夕菴せきあんに命じて作らしめたと伝うるもので
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
寂照が願文がんもんを作って、母の為めに法華ほっけ八講はっこうを山崎の宝寺にしゅし、愈々本朝を辞せんとした時は、法輪さかんに転じて、情界おおいに風立ち、随喜結縁けちえんする群衆ぐんじゅ数を知らず、車馬填咽てんえつして四面を成し
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
捧げたる願文がんもんにこそ。光り匂ふのりのため
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
「そして、諸寺への願文がんもんとか写経にばかり御専念とある。いまも水分みくまりで聞けば、きのうは金剛山寺へお登りとか」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを御仏みほとけへの結縁としてせめて愛する者二人が永久に導かれたい希望が御願文がんもんに述べられてあった。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
告別の願文がんもん を読み立てました。その願文は
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大いにそれを振るわすため、途上の神仏に願文がんもんをささげ、また何らかの奇蹟を行い、三軍を沸騰ふっとうさせて出向くのを常道とする。兵法として、はばかるまい。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑用をする僧は願文がんもんのことなどもよく心得ていて、すばやくいろいろのことを済ませていく。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
いましがた拝殿の方で、柏手かしわでの音が聞えた。光秀以下、幕僚たちも揃って、神前へ願文がんもんめたものらしい。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
惟光これみつの兄の阿闍梨あじゃりは人格者だといわれている僧で、その人が皆引き受けてしたのである。源氏の詩文の師をしている親しい某文章博士もんじょうはかせを呼んで源氏は故人を仏に頼む願文がんもんを書かせた。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
こう願文がんもんのうえに自己の本心をさらけ出したときは、自然、そのわずかな間では、きっと尊氏の眼には、ぼうだと、掻き曇るばかりな涙がわいたことであろう。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
義貞は日吉ひえの大宮権現ごんげんにひとり参籠さんろうして、氷のようなゆかに伏した。夜もすがらなにか一念の祈願をこめ、あわせて願文がんもんと重代の太刀鬼切とを、社壇へおさめた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
産土うぶすなの神も照覧しょうらんあれ願文がんもんの誓いはきっとつらぬいてみせよう。——ここにただ尊氏をさえ滅ぼしてしまえばだ。道誉一人の存否などは問題でない。どうにでもなる。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのいのりの必死懸命となるときは、願文がんもんじゅする声が、帳外の武者つわものの耳にも聞えてくるほどであった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
篠村しのむら八幡へこめた願文がんもんにも、彼は国内平安と朝家の御為をうたっている。家の名をはずかしめずともいっている。また彼の思想からも元々、逆賊叛臣が本懐ほんかいではない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あえて、践祚せんそをとり行って二日後の晩であった。彼は、人知れず清水寺きよみずでら願文がんもんをおさめていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一例をあげれば、清水寺きよみずでら願文がんもんなど、あれを書かれた御本心が疑われてならないのです。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここには、かつて自分が旗上げの日にめた願文がんもんがおさめられてある。——一には世のために、二には朝家のため、三にはわが源家再興のため——と素志そしを天にちかった願文だった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尊氏旗上げの地、篠村八幡では、尊氏直筆の“願文がんもん”を見た。尊氏の筆蹟は、例の石清水いわしみずの仮名がきの願文でも、このようなかたい楷書の物でもみな武将に似あわずどこか優しいところがある。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
府中の六所神社ろくしょじんじゃで義貞は願文がんもんをあげた。また千寿王へは、全軍が多摩川を渡りきるまでここにいるようにといって、その紫の旗を玉垣の外に立てさせた。何かと悠々たる義貞の指令ぶりだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてたまうてな願文がんもんをささげ拈香ねんこう十拝、花に水をそそいで静かに退がる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてすぐ、かねて賜わっていた綸旨りんじと、願文がんもんを読みあげた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
付けの願文がんもんを以て、武運の長久を祈っている。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「妙源、願文がんもんを」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)