頤使いし)” の例文
公子二人は美服しているのに、温は独り汚れあかついたきぬを着ていて、兎角とかく公子等に頤使いしせられるので、妓等は初め僮僕どうぼくではないかと思った。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その時鹿田は酒で顏を赤くしてだらしのない風で街道を漫歩し、美少年たる富之助を頤使いしするといふことを自慢にしてゐるらしく見えた……
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
だんだん勢力を得てきていわゆる寺院の頤使いしにも応じなくなったことは、すでに記した五ヶ所唱門の中にも、高御門と瓦堂と鉾大明神との徒は
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
ダンスとゴルフとドライヴ、この三つのヴァライエティだけが生活の全部で、槇子姉妹まきこきょうだいに奴隷のように頤使いしされるのをたいへん光栄に存じている。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
三等郵便局としてはあまりに広すぎる事務室に彼好みの官僚的な色彩を加えて数人の若い事務員を頤使いししていたし
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ばくす者を敵視するなよ。おそらくそちの意志ではなく、無根むこん風説ふうせつとわしは信じておるが、柳沢吉保に頤使いしされて、諸方に奔走するなどといううわさも聞く。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(ガマーシュの言うところによれば、そういうところにいる人々は皆彼の頤使いしのままになるらしかった。)
島民等を頤使いしして、舟庫を作らせたり祭祀をとり行ったりもした。司祭コロンに導かれて神前に進む彼の神々しさに、島民共はひとしく古英雄の再来ではないかと驚嘆した。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
万事万端妻の頤使いしに甘んじて、奴僕ぬぼくのごとき忍辱にんにくを重ねていたからであったが、もっと手っ取り早く言おうならば、ドン・アルヴァロ・メッサリイノ伯爵といえば
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
幕府は老中水野和泉守いずみのかみの名で正月の二十五日あたりからすでにその催促を万石以上の面々に達し、三百の諸侯を頤使いしした旧時のごとくに大いに幕威を一振いっしんしようと試みていた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老臣の多くと、佐幕を本領とする保守派の人々はむしろごとごとくかれの頤使いしに甘んじていた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
抄紙機に駆使され頤使いしされて、周章狼狽の果ての過失から、まざまざと彼らは弱者たる彼ら自身を彼らの運転する機関の前に曝さねばならない惨めなジレンマに堕ちてしまったといっていい。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
さうしてその気性とませた頭をもつて意気地なしのぼんやりな年弱に対してとかく女王のやうにふるまふ気味があつたが、私は満足してあらたに君臨したこの女王の頤使いしに身をまかせようと思つた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
五位は、ナイイヴな尊敬と讃嘆とを洩らしながら、この狐さへ頤使いしする野育ちの武人の顔を、今更のやうに、仰いで見た。自分と利仁との間に、どれ程の懸隔があるか、そんな事は、考へる暇がない。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
女王の如くおっと頤使いしし、彼に奴隷的奉仕を強いる女であった。
「それがしは漢の名将の子、将軍も漢朝の忠臣馬援が後胤ではないか。そのふたりが漢朝の宗室たる劉玄徳をちに向われるか。しかも逆臣の命に頤使いしされて」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頤使いしのままになる部下の一人に命じて、半月ばかりたつうちに、クリストフにたいする賛嘆の記事をこしらえさした。でき上がったその記事は、思いどおりの感激的な大袈裟おおげさなものだった。
さりとて彼の頤使いしに甘んじて、蜀を伐つには、その戦費人力の消耗には、計り知れぬものがあり、これに疲弊ひへいすれば、禍いはたちまち次に呉へ襲ってくるであろう。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰もが、これ以上、大国の隷属れいぞくあつかいに頤使いしされるよりは——と、堪忍の緒をやぶった顔つきだ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その子たる者が、何故、丞相府の一官吏となって、賤しき曹操の頤使いしに甘んじておらるるか、なぜ、廟堂に立って、天子をたすけ、四海の政事まつりごとに身命をささげようとはなさらぬか
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかの同僚を頤使いしして、相変らず空威張からいばりを通している、当然、村の煙火師たちからも、反感をもって見られていたが、家老のせがれというので、誰も、表面だけお坊っちゃんに扱って
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、自分の卑下で自分をおさえころしてきた。しかし、いつまでたっても、彼女には、武家生活にめず、そして目下の男女を目下と頤使いしするような思い上がりにもなれないのだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど信長に頤使いしされて高槻城へ向ったオルガンチノも心のなかで
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「武家の傀儡かいらいとなり、武家の頤使いしに従っているには忍びぬ」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あだかも、自己の家来でも頤使いしするように
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)