面当つらあ)” の例文
旧字:面當
「退治するところですから利いていますわ。あんな謡曲を教えて戴く面当つらあての意味にもなって、お礼にはこれに限りますわ」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あまりに意地悪き二つの道に対する面当つらあてである。一つの声は二つの道を踏み破ってさらに他の知らざる道に入れと言った。一種の夢想である。
二つの道 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一つは継母を挙げた石原の利助への面当つらあてもあったでしょうが、とにかく、この時代には、こんな形式の捕物も決して珍しくはなかったのです。
第一に権兵衛が自分に面当つらあてがましい所行しょぎょうをしたのが不快である。つぎに自分が外記の策をれて、しなくてもよいことをしたのが不快である。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし内心は面白くないから、幾らかお半に面当つらあてのような気味で、両国の列び茶屋などへ遊びに行って、お米という女と関係が出来てしまった。
すぐ隣にこんな耳の遠い人のいたこともしらず、面当つらあてがましく六カ月もつんぼの噺をやらせる奴もないものだっけ。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
おしげは、さうだ、秀ちやんとお酉様へお詣りしようと思ひついた、豊太郎にも、おきよにも面当つらあてになると考へた。
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
そのものが、おもいかなわないあだに、私が心一つから、沢山の家も、人も、なくなるように面当つらあてにしますんだから。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さらしおって! それが親への見せしめか? 死んで親に面当つらあてしようという気か? いやなら厭だと、なぜ初めから言わん? 気が向かんとなぜ言わんのだ!
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
だが、戌年いぬどしの犬公方も、戌年の柳沢吉保も、面当つらあてを喰ったようなもので、どんなに怒ったかもしれますまい。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
品子への面当つらあてと、両方の必要から自然猫好きになつてしまひ、自分もさう思へば人にも思はせてゐたのであつて、それは彼女がまだ此の家へ乗り込まない時分
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それでは、何だかひどく下等な「面当つらあて」みたいだ。まさかあの聖諦の乙姫が、そんな長屋の夫婦喧嘩みたいな事をたくらむとは考へられない。どうも、わからぬ。
お伽草紙 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
しかしわたしはの明け次第、甚内の代りに殺されるのです。何と云う気味きみ面当つらあてでしょう。わたしは首をさらされたまま、あの男の来るのを待ってやります。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……あんまりひどいことをする奴だ。……ナニ構うものか、お宮にコートを買ってやる! 買ってやる! おすまが見ていなくってもいい、面当つらあてにお宮に買ってやるんだ!
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「ええっ、ばかなことを! あなたに受けちゃいけませんよ! もっとも、それでなくたって、本当にはしていらっしゃらないが!」ラスコーリニコフはそれこそ全く面当つらあてに
ということを言う者がございまして、そこで、あんな面当つらあてだけにとどめたということでございますから、今後、また度々たびたびいたずらをするにきまっております、そうしますと、時のハズミで
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「エムプレス・チャイナへ面当つらあてにした事でもねえんだな」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「でもいくらか面当つらあてもあったでしょう。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
品子への面当つらあてと、両方の必要から自然猫好きになつてしまひ、自分もさう思へば人にも思はせてゐたのであつて、それは彼女がまだ此の家へ乗り込まない時分
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
深間ふかまになっていた男がほかの女に見かえたので、面当つらあてに誰とでも死にたがっていたのである。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
大きな体躯なりをして子供らしい奴等だ。それでお春さんは彼様あんなに乃公を好遇よくしたんだな。可愛がられるのもいいが、面当つらあてに可愛がられるんじゃ一向ありがたくも何ともない。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いちいち、面当つらあてをされてるように思えてならなかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お願いだ、殺してくれ。俺はもう生きるせいも張合も抜けた——二十年この方、女房まで追い出して、食うや食わずで溜めた金だ。せめて盗んだ野郎へ面当つらあてに、くびでもくくって死んでやってよ、化けて出てうらみが言いてえ」
面当つらあてというでもあるまい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
品子への面当つらあてと、両方の必要から自然猫好きになってしまい、自分もそう思えば人にも思わせていたのであって、それは彼女がまだこの家へ乗り込まない時分
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
采女うねめはこの柳に着物を掛けて身を投げました。面当つらあてですわね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、こんな時とばかり、苦々しげに面当つらあてをいった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(俺へ面当つらあてをいってやがる)と思った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)