雨漏あまも)” の例文
土蔵一つだけ残っていますが、あれはひどい雨漏あまもりで、山崎様御盛ごさかんの頃払下げになり、取りこわすつもりで、そのままになっております
などと、思うまいとする思いが、雨漏あまもりみたいに、胸にシミ出すと、かれは、父へのおそれも、弟への気がねも、今は、何ものでもなく
壁にぴたりとくっつけてあるが、その壁紙には雨漏あまもりのしみが、ツララのさがっている形を描いていた。剣のようにも見える。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
女形の衣笠きぬがさや四郎五郎なぞという俳優の現代物が、雨漏あまもりのした壁画のような画面を展開していたにすぎなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雨漏あまもりの水が板の間を伝って流れて来るように、紙が眼の前を流れて行くから、いったい、何をそれほど熱心に書いているのだろうと、のぞいて見ると
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どこかで雨漏あまもりがするらしく、天井の裏でときどきにしずくの落ちる音がほとほとと聞えるのも寂しかった。紙のすすけた行燈の灯は陰ったようにぼんやりと暗かった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いくら修繕しても雨漏あまもりがして、今ぢやとても住めたものぢやありませんよ。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
その部屋けは割に明るい電燈が下っているけれど、うす黒くなったふすま、破れた障子しょうじ雨漏あまもりの目立つ砂壁、すすけた天井、すべての様子がイヤに陰気で、まるで相馬の古御所ふるごしょといった感じだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かべやぶれも、ふせがねばならず、雨漏あまもりもめたし、……そのなによりも、をまもるのが、町内ちやうない義理ぎりとしても、大切たいせつで、煙草盆たばこぼんひとつにも、一人ひとりはついてなければならないやうな次第しだいであるため
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
硝子ガラス戸から客間をのぞいて見ると、雨漏あまもりのあとと鼠の食つた穴とが、白い紙張りの天井てんじやう斑々はんぱんとまだ残つてゐる。が、十畳の座敷には、赤い五羽鶴ごはづるたんが敷いてあるから、畳の古びだけは分明ぶんみやうでない。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
七 雨漏あまもりにもねむりさまたげず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
「てめえの家の餓鬼がきか。この悪戯わるさのために、雨漏あまもりがして、どうもならぬゆえ、らしめてくれたのが、何とした」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
硝子戸から客間をのぞいて見ると、雨漏あまもりの痕と鼠の食つた穴とが、白い紙張りの天井てんじよう斑々はんぱんとまだ残つてゐる。が、十畳の座敷には、赤い五羽鶴ごはづるたんが敷いてあるから、畳の古びだけは分明ぶんみやんではない。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「去年お取潰しになつた、讃州さんしう丸龜まるがめの山崎志摩守しまのかみ樣の御下屋敷跡ですよ。土藏一つだけ殘つて居ますが、あれはひどい雨漏あまもりで、山崎樣御盛の頃拂下げになり、取こはすつもりで、そのまゝになつて居ります」