雛形ひながた)” の例文
こういうふう羽翼うよくを附けてこういうように飛ばせば飛ばぬはずはないと見込がついた上でさて雛形ひながたこしらえて飛ばして見ればはたして飛ぶ。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
羅馬ロオマなる聖彼得寺サント、ペエトル塔を觀てミケランジエロが作りし雛形ひながたの美に驚くは、建築を視る眼あるものゝ皆能くするところなるべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
臥雲震致がうんしんちが十四歳のとき発明した紡績機械の雛形ひながたを見たりして、あまり甚だしい脱線もなく、この展覧会を立ち出でました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実物でなくて小さな雛形ひながたであると信ずることができるとすれば現象は不自然さを失ってしまうはずである。
映画の世界像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自然は、あらゆるものを多少文明に持たせるため、おもしろい野蛮の雛形ひながたまでも文明に与えている。ヨーロッパはアジアやアフリカの小形の見本を持っている。
別に他に輝ける日輪があって、あたかもその雛形ひながたのごとく、灰色の野山の天に、寂寞として見えた——
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唐子の下絵したえは楓湖氏の筆になったもので、それを見本として雛形ひながたを作る。ところが、その唐子というものはお約束通り、ずんぐりとした身長せいのもので大層肥太ふとっている。
鞍部あんぶ懸垂けんすいしているが、アルプスのベルニーズ・オーバアラント山地あたりの大氷河に比べると、恐らく雛形ひながたぐらいの小さいものだろうが、それでも擬似ぎじ氷河ではない。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そしてジョルジュは、自分の雛形ひながた(だと彼は認めた)が、自分と同じような過失を通って、新しい光の下に、いや滑稽こっけいな姿で、しだいに浮き出してくるのを見てとった。
夜の眼も合わさず雛形ひながたまで製造こしらえた幾日の骨折りも苦労も無益むだにした揚句の果てにひとの気持を悪うして、恩知らず人情なしと人の口端にかかるのはあまりといえば情ない
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ひさしまで備わり、三浦と染め出した暖簾のれん、横手の壁には吉原と書いた青楼おちゃや雛形ひながたに載せてかついでいようという、いかにも女之助と呼びたい、みずからそのべに絵中の一人物——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ばちを土中にうづめて其縁そのふちの部を少し高く地上にあらはし置けば竪穴の雛形ひながたと成るなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
洋夷よういの調練している油絵がある、こちらの棚に並べてあるのはありゃ大砲の雛形ひながたで、五大洲の地図もあれば地球儀もある、本箱に詰っているのはありゃみんな洋書で
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかもかれしまらない人間にんげんとして、かく漂浪へうらう雛形ひながたえんじつゝある自分じぶんこゝろかへりみて、もしこの状態じやうたいながつゞいたらうしたらからうと、ひそかに自分じぶん未來みらいあんわづらつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
といった。この政社の雛形ひながたは進取社と名づけられて、保は社長、準平は副社長であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ちょうど子供がおもちゃの積み木で伽藍がらん雛形ひながたをこしらえようとしているのとよく似た仕事である。それが多少でも伽藍らしい格好になるかならないかもおぼつかないくらいである。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
まず一尺位の雛形ひながたをこしらえてもらって、それを本国に持ち行き、先方にて話の上にて、さらに大作の方をもたのむ計劃であるが、差し当ってはその雛形を念入りに彫ってもらいたい。
とうとう自分が造りたい気になって、とても及ばぬとは知りながら毎日仕事を終るとすぐに夜をめて五十分一の雛形ひながたをつくり、昨夜ゆうべでちょうど仕上げました、見に来て下されお上人様
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その年齢の子供らは母親の雛形ひながたにすぎない。ただ形が小さいだけのものである。
「ようよう! 夫婦めおと雛形ひながた!」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかも彼は根のしまらない人間として、かく漂浪ひょうろう雛形ひながたを演じつつある自分の心をかえりみて、もしこの状態が長く続いたらどうしたらよかろうと、ひそかに自分の未来を案じわずらった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
先達てドイツのある科学雑誌に猫の宙返りの真似をする雛形ひながたが載せてあった。厚紙か何かの筒の横腹から四つ足を出したものが猫の胴になりその一端に薄っぺらな短い尻尾が付いている。
猫六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私はその大仏さまの雛形ひながたを作って見るということになりました