みや)” の例文
「雅俗」といふ熟語なども、「みやび」に対して「俗」と云へば、それだけでは、別に「卑しさ」をまで意味しないのではないかと思ひます。
そしてそれが人間の心境しんきょうに影響すれば、悪人あくにん善人ぜんにんになるであろう。すさんだ人もみやびな人となるであろう。罪人ざいにんもその過去を悔悟かいごするであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
丹波口たんばぐちに近いあたりで舟を下り、西の京の町にはいった生絹すずしは、物商う声、ゆききする人の晴れやかな装束、音という音のみやびたるに眼をみはった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
天使または魂にあるをうるかぎりのつよさとみやびとはみな彼にあり、われらもまたその然るをねがふ 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たつた今、あなたが描いて見せた畫は、むしろ壓倒し過ぎるほどの對照を暗示ほのめかしてゐるのだ。あなたの言葉はみやびやかなアポロの姿をいともうるはしく描き出してゐる。
輿こしを降りて、近衛前久は、くつの運びもみやびやかに、長い軍列の遥か中ほどから此方こなたへ歩いて来た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……なにしろこの師範代は稽古が荒いのだ、歌舞伎役者のような美男で、起ち居も上品だし、言葉つきもたいそうみやびたものだが、いったん竹刀を持つと人が変ってしまう。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
京都の嵐山あらしやまの前を流れる大堰川おおいがわには、みやびた渡月橋とげつきょうかかっています。その橋の東詰ひがしづめ臨川寺りんせんじという寺があります。夢窓国師むそうこくしが中興の開山で、開山堂に国師の像が安置してあります。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勿論「野分の又の日こそいみじう哀れなれ」と清少納言が書いた様な平安朝の奥ゆかしい趣味は今の人にも伝はつて居るから、野分と云ふみやびた語の面白味を感じないことは無いが
台風 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ヒラリ、馬をおりるが早いか、まごつく十内を案内にうながしたてて、そのまま庭の柴垣にそって、みやびた庭門をあけさせ、飛石づたいにいおりのほうへと、雨に追われるように駈け込んでいきます。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
翁草おきなぐさ、吟味してみやびた物言ばかりなさるマダアム・プレシウズ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「みやこにはあなたを待つ人がおられます。あなたのみやびたる才がその人を高きにかせる。」
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
琴棋書画きんきしょがみやびは、もちろん、管絃の遊び、蹴鞠けまり、舞踊、さては儒仏じゅぶつの学問も、つまびらかなうえ、市井しせいの人情にもつうじている風流子ふうりゅうしであるとは、この開封かいほう東京とうけいの都で
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お言葉がみやびているからして、おまえたちにはその意がげせぬものだ、黙っていなさい、……ええ恐れながら私めは、唯今こそ零落して繩屋渡世などいたしておりまするが
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
濃紫こむらさきの乘馬服を着、黒天鵞絨くろびろうどのアマゾン風の帽子を、頬に觸れ肩にたゞよふ房々とした捲毛の上に、形よく載せた彼女の姿よりも、もつと美しくみやびなものを、殆んど想像することが出來ない。
カエンソウなどのみやびな名もある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)