陣鉦じんがね)” の例文
……突込んで行く軍兵の声、狂奔する馬のいななき、それを押包むような陣鉦じんがね法螺貝ほらがいの音が、伊勢の山野にすさまじく響きわたった。
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とたんに四面四山は耳もろうせんばかりな陣鉦じんがね陣鼓じんこ陣螺じんらの響きであり山の人間どもの諸声もろごえだった。——無我夢中で秦明は兵とともに逃げなだれた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、やがて、陣鉦じんがねの音が、富士の山骨から鳴り渡り、それがすっかり止んだ時、人間狩りも終りを告げた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いずれの船からも陣鉦じんがね法螺ほらの貝などを鳴らし立てて、互いにその友伴れをあつめ、帰りは櫓拍子に合わせて三味線の連れ弾きも気勢いよく、歌いつ踊りつの大陽気
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
ても耳の底に残るようになつかしい声、目の奥にとどまるほどにしたしい顔をば「さようならば」の一言で聞き捨て、見捨て、さて陣鉦じんがねや太鼓にき立てられて修羅しゅらちまたへ出かければ
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
「篝火が盛んに燃えていますね、あれ、陣鉦じんがね、陣太鼓の音も聞えるではありませんか」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
声に応じて大蔵ヶ谷右衛門は、大鉞を抛り出し、かたわらの陣鉦じんがねをムズと掴み、突っ立ち上がると見る間もなく、兵法に叶ったばちさばき、哈々ごうごうと鉦を打ち鳴らした。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
よろよろと立って扉へ身をもたせた、耳を澄ますと騒動は寺の内だけではなかった、はるかに遠く、おそらくおしの城下とも思えるあたりでは陣鉦じんがねや銃声さえ聞えていた。
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
を鳴らし、陣鉦じんがねをたたき、数千のかぶと虫が、東国なまりの将に叱咤しったされては、赤坂の丘の下へ向ってまッ黒に駈け、たちまち丘の三方にわたるカラぼりを埋めつくす。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣鉦じんがね、陣鉦っ。総がかりの鼓を打てや。夜の白むまでに、松井田の城は相木勢が乗り破った』
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄砲足軽を真っ先に立て弓方やり方を段々に備え、浪人組に旗本を守らせ、あるいは騎馬、または徒歩かち、狩犬の群を引卒し小荷駄兵糧を殿しんがりとして、太鼓、陣鉦じんがね法螺貝ほらがいの音に
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しゅ椅子いすによって、しずかな藤波ふじなみへ、目をふさいでいた快川和尚かいせんおしょうは、ふと、風のたえまに流れてくる、法螺ほら遠音とおね陣鉦じんがねのひびきに、ふっさりしたぎん眉毛まゆげをかすかにあげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法螺ほらも太鼓も陣鉦じんがねもない。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのうしろで、押し太鼓のバチは狂気のような乱打をつづけ、陣鉦じんがねは山をふるわせた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして宋江そうこうは、ひだりに穆弘ぼくこう、みぎには黄信こうしん、さらに花栄かえい欧鵬おうほうらの兵幾団を、二陣三陣と備え立てて、戦鼓せんこ陣鉦じんがね、トウトウと打ち鳴らしながら、独龍岡どくりゅうこうへじかに攻めのぼった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも、乱打の陣鉦じんがねや矢うなりは今朝から聞えず、ただ人間の吠えと叫喚ばかりだった。すでに合戦は、街なかの辻々に圧縮され、いずこも肉闘の白兵戦となってきた証拠であろう。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
関西の兵をうながす檄文げきぶんを起草し、都下出発の朝、勢揃いと称して、曹操の閲兵えっぺいを乞い、急に陣鉦じんがねを鳴らすを合図に、曹操を刺し殺してしまおうと、すべての手筈までしめし合わせた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一とき、陣鉦じんがねや押し太鼓の乱打も、効はなかった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣貝、陣鉦じんがねなどはもとより持たない。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陣鉦じんがねの乱打が地をつつむ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)