金屏きんびょう)” の例文
正面には高さ四尺の金屏きんびょうに、三条さんじょう小鍛冶こかじが、異形いぎょうのものを相槌あいづちに、霊夢れいむかなう、御門みかど太刀たちちょうと打ち、丁と打っている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かがりをき、或いは金屏きんびょうに花を添え、軒に香を焚いて気をきよめなどする者もあって、見廻りにあるいた騎馬の城士が
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金屏きんびょうの前に、紫檀したんの台に古銅こどうの筒の花器はないれ、早い夏菊の白が、みずみずしく青い葉に水をあげていた。深い軒に、若葉がさして、枝の間から空は澄んで見えた時節だった。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
真中には印度綆紗インドさらさをかけた長方形の紫檀したんテーブルがあって、その左右にはそれぞれ三脚の椅子いすが置いてあった。テーブルのむこうには燦然さんぜんとした六枚折の金屏きんびょう。壁には宝玉ほうぎょくが塗り込んであった。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
雅樸に偏する者は百姓と言ひくわと言へば則ち以て直ちにとし、また他を顧みず。これ他の卑野と目する所以なり。婉麗に偏する者は少女おとめと言ひ金屏きんびょうと言へば則ち以て直ちにとし、また他を顧みず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
金屏きんびょうにともし火の濃きところかな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
金屏きんびょうを背に、銀燭ぎんしょくを前に、春の宵の一刻を千金と、さざめき暮らしてこそしかるべきこのよそおいの、いと景色けしきもなく、争う様子も見えず、色相しきそう世界から薄れて行くのは
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
縁者どもはしきりと辞退しぬいていたが、まさか、眼上の年老としとったお方達を下部屋しもべやへ寝かせて、そなたとわしが金屏きんびょうのうちにもやすめまい。無理に子連れの小母おばや御老人などを
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人は白い長い腭鬚あごひげをひっぱり、黒ちりめんの羽織で、大きなしとねに坐り、銀の長ぎせるで煙草タバコをのみ、曲彔きょくろくをおき、床わきには蒔絵まきえ琵琶びわを飾り、金屏きんびょうの前の大がめに桜の枝を投げ入れ
金屏きんびょうのかくやくとして牡丹かな
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
金屏きんびょうの松の古びや冬籠り 芭蕉
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
惜しい事に作者の名は聞き落したが、老人もこうあらわせば、豊かに、おだやかに、あたたかに見える。金屏きんびょうにも、春風はるかぜにも、あるは桜にもあしらってつかえない道具である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
へやの隅には二枚折りの金屏きんびょうに墨絵、その前には卓に鉢植の木瓜ぼけが一、二輪淡紅のつぼみをやぶっていた。純白な布の上におかれた、小花瓶の、猖々緋しょうじょうひの真紅の色を、見るともなく見詰めていた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
金屏きんびょう銀燭のまえに、桃山刺繍ぬいのうちかけを着、玉虫色のくちびるを嫣然えんぜんと誇示している時の吉野太夫よりも、このくすんだ百姓家の壁と炉のそばで、あっさりと浅黄木綿を着ている彼女のほうが
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金屏きんびょう高御座たかみくらあり出御しゅつぎょまだ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
友禅ゆうぜんの模様はわかる、金屏きんびょうえも解せる、銀燭ぎんしょく耀かがやきもまばゆく思う。生きた女の美しさはなおさらに眼に映る。親の恩、兄弟の情、朋友の信、これらを知らぬほどの木強漢ぼっきょうかんでは無論ない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金屏きんびょうに畳の縁は流れゐる
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)