酔漢よっぱらい)” の例文
酔漢よっぱらいは耳にも懸けずたけり狂って、なおも中間をなぐりるを、侍はト見れば家来の藤助だから驚きまして、酔漢にむか会釈えしゃくをなし
しゃくり上げ歔欷しゃくりあげして泣き出し、ああ情ない親方、私を酔漢よっぱらいあしらいは情ない、酔ってはいませぬ、小蝶なんぞはべませぬ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この町のずッと奥の方に、近ごろ出来た石鹸せっけん工場の職工らしい酔漢よっぱらいが、呂律ろれつの怪しい咽喉のどで、うたうたって通った。空車をいて帰るだるい音などもした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、笑いながら酔漢よっぱらいのように身体を自由にぐらぐらさせて歩きたくなって来た。自棄酒やけざけを飲みたくなった。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
鼻のさきを、そのが、暗がりにスーッとあがると、ハッくさめ酔漢よっぱらいは、細いたがはまった、どんより黄色な魂を、口から抜出されたように、ぽかんと仰向あおむけに目を明けた。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くどいのは酔漢よっぱらいの癖。老爺ははらはらしている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「俺は羽毛はねのように軽い、天使のように楽しく、学童のように愉快だよ。俺はまた酔漢よっぱらいのように眼が廻る。皆さん聖降誕祭お目出度う! 世界中の皆さんよ、新年お目出度う! いよう、ここだ! ほーう! ようよう!」
よっぱらっている侍が初め刀にを附けたが、高くて買われないでところへ、此方こちらの若い侍が又その刀に価を附けた処から酔漢よっぱらいおこり出し
そうしてフカフカと莨をふかす。筋張ったような顔が蒼くなって、目が酔漢よっぱらいのように据わっている。口を利く張合いも抜けてしまうのだが、胸の中はやっぱり煮えている。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
土地れぬ足許は、ふらつくばかりあやぶまれたが、対手あいてが、しゃんと来いの男衆だけ、たしかに引受けられた酔漢よっぱらいに似て、擦合い、行違う人の中を、傍目わきめらず饒舌しゃべるのであった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しきりに侍と亭主と刀の値段の掛引かけひきをいたして居りますと、背後うしろかたで通りかゝりの酔漢よっぱらいが、此の侍の中間ちゅうげんとらえて
酔漢よっぱらいはもう出たと見えて、店がしんとしていた。生温なまぬるいような風が吹く晩で、じっとしていると、澄みきった耳の底へ、遠くで打っている警鐘の音が聞えるような気がする。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さて酔漢よっぱらいは、山鳥の巣に騒見ぞめく、ふくろうという形で、も一度線路を渡越わたりこした、宿しゅくの中ほどを格子摺こうしずれにしながら、染色そめいろも同じ、桔梗屋、といて、風情は過ぎた、月明りの裏打をしたように
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小僧たちの顔を見ると、一様に不安そうな目色をして、酔漢よっぱらいを見守っている。奥の方でも何だかごてついているらしい。上り口に蓮葉な脱ぎ方をしてある、籐表とうおもての下駄は、お国のであった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)