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とほりぬ
彼處を
通拔けねばならないと
思ふと、
今度は
寒氣がした。
我ながら、
自分を
怪むほどであるから、
恐ろしく
犬を
憚つたものである。
唯見ると、する/\と
動く。
障子はづれに
消えたと
思ふと、きり/\と
板に
鳴つて、つる/\と
辷つて、はツと
思ふ
袂の
下を、
悚然と
胸を
冷うさして
通拔けた。
部屋は
四疊敷けた。
薄暗い
縱に
長い
一室、
兩方が
襖で
何室も
他の
座敷へ
出入が
出來る。
詰り
奧の
方から
一方の
襖を
開けて、
一方の
襖から
玄關へ
通拔けられるのであつた。
第一、
身に
着いた
絲の、
玩弄具の
鳥が、
彳んだものを、
向うへ
通拔ける
數はない。
「
居ない。」と
呟くが
如くにいつて、
其まゝ
通拔けようとする。