にぐ)” の例文
思起すと、私はもう一足も其の方へちかづくのに堪へぬやうな氣がして、にぐるが如く東照宮の石段をのぼつて、杉の木立の中に迷ひ入つた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
ピストイアは我にふさはしき岩窟いはあななりき、われ導者に、彼ににぐる勿れといひ、また彼をこゝに陷らしめしは何の罪なるやを尋ねたまへ
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
れいの石がちやんとしたよこたはつて居たので其まゝみ、石をだい濡鼠ぬれねずみのやうになつてにぐるがごとうちかへつて來た。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
常人つねなみのひとならばといひてにぐべきに、さはなくてその方に身をむけてつら/\見るに、かうくらくなりしにかゝるものゝあり/\と見ゆるもたゞ人ならじと猶よく見れば
が、咫尺しせきも弁ぜざる冥濛めいもうの雪には彼も少しく辟易へきえきして、にぐるとも無しに空屋あきや軒前のきさきへ転げ込んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いひつつ走りよりて、「やをれ黒衣、にぐるとて逃さんや」ト、一声高くえかくれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
なしねと言るゝ程猶彌増いやます未通女心おぼこごゝろ初戀はつこひしたふお方と縁のいとむすんでとけて末長く添るゝ事も父親が承知しようちとあればつひ斯々と言んとすれどかねしが斯てははてじと思ふよりハイ吾儕わたくし彼方あのかたなれば實に嬉しう御座りますと有か無かは聲出して思ひきつてぞ言たる儘發とおもて紅葉もみぢして座にも得堪えたへず勝手の方へにぐるが如く行たるは娘意むすめごころぞ然も有可し父は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)